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起死回生とはならなかった国共党首会談
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会談前に握手する台湾の与党、中国国民党の朱立倫主席(左)と中国共産党の習近平総書記=2015年5月4日、中国・首都北京市西城区の人民大会堂(共同)
台湾の与党、中国国民党の朱立倫主席(53)が4日、北京で中国共産党の習近平総書記(国家主席、61)と会談し、国共両党の良好な関係をアピールした。朱氏は中国側に耳障りな話題を避けて友好の演出に腐心し、中国側も表向きは厚遇で応じた。だが、内容は台湾側の期待値を上回るものはなかった。6年ぶりとなった国共党首会談は、昨年春の学生運動以降、冷え込んでいた中台関係を仕切り直す一定の効果はあったものの、国民党から見れば来年の総統選への「起死回生の一手」とまではならなかったようだ。
昨年11月末の統一地方選で惨敗した国民党にとり、今回の国共党首会談はもろ刃の剣だった。惨敗の原因が、学生運動でも示された馬英九政権の親中姿勢への反発である以上、過度の対中傾斜は避けたい。
一方で、野党、民主進歩党を牽制(けんせい)するためには、共産党との関係の深さをアピールし、国民党こそが中台関係の安定を実現できる政党だと示す必要がある。難しいバランスが求められる会談であり選択肢は多くなかった。総統選での劣勢を覆す「最後のカード」ともされた今回の会談だが、結果論からすると、朱主席は低姿勢のあまり、後者に偏った印象を与えてしまった。
会談で朱氏は、中台は「同じ一つの中国に属している」と述べた上で、「92年コンセンサス(合意)」が中台関係の前提だと強調した。台湾当局は92年合意とは「一中各表」、つまり「『中国』の解釈は各自が行うもので、中華民国を指す」と対内的に説明しているが、朱氏は会談でこの点に言及せず、「内容と定義が異なる92年合意」とあいまいな表現にとどめた。その上で、合意を「深化」させたい、とも述べた。台湾では、会談で92年合意に代わる新たな概念を模索するのではないかとの期待が高まっていたため、肩すかしとなった。
また、朱氏は、台湾の「100年の歴史」を語り、孫文(1866~1925年)が1911年に「中華民国」を建国した史実に触れた。会談に同席した国民党の立法委員(国会議員に相当)は「感動し、誇らしかった」と述べて、朱氏の成果として強調したが、共産党も建国の史実は否定していない。台湾の与党党首として言及すべきは、国民党が49年に台湾に逃れて以降の「中華民国」であり、その点に言及せずに「成果」を誇るのは羊頭狗肉(ようとうくにく)の感が否めない。
さらに、朱氏は「92年合意の基礎の上に台湾の国際発展空間が増すことを望む」と述べた。だが、中台関係と台湾の外交とを関連付けるこの発言は論理矛盾だとの批判がある。中国政府が掲げる「一つの中国」とは、台湾は中国の一部分だという意味であり、その中国が台湾の「国家」としての「国際的な活動」を認めるはずがないためだ。
実務面でも、朱氏は会談に台湾の「中小企業」「中・低所得者」「中南部」と「青年」を指す「三中一青」の代表を同席させ、こうした人々との交流の重要性を訴えた。前日に上海で行った講演では、「両岸(中台)の平和によるボーナスをより多くの民衆が感じられるようにすべきだ」と述べており、馬政権下では中台の経済交流の利益が大企業に集中しているとの批判に配慮した。ただ、「三中一青」を重視する方針は、習氏が昨年5月に示したもので、受け売りといわれても仕方がない。
対する習氏は、表向き過去10年間に国民党が果たしてきた役割を高く評価したものの、「中台関係は現在、新たな節目に立っている」と強調。中台関係の行方は、中台の「すべての政党にとり重大な問題だ」と述べて、民進党の動向を注視していることを示唆した。
会談の成果について、台湾師範大の范世平教授は、5月5日付聯合報への寄稿で「新たな突破はなかった」と分析。中国時報も5月5日付社説で「良く言えば理性的で実務的、悪く言えば創造的な思考に欠ける」と評価し、総統選で国民党が有利になるには「さらに努力が必要だ」と断じた。聯合報や中国時報といった国民党寄りのメディアですら高い評価を与えていないことが、今回の会談に臨んだ朱氏の成果を如実に物語っている。(台北支局 田中靖人/SANKEI EXPRESS)