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【相川梨絵のバヌアツ通信】エファテ島以外のサイクロン被害
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タンナ島にある昔ながらの家。周りを覆うナタンゴラリーフは飛んでしまったものの、骨組みは健在です=2015年、バヌアツ(相川梨絵さん撮影) 今回は、3月にバヌアツを直撃した巨大サイクロンによる被害について、首都があるエファテ島以外にも目を向け、その後の様子をバヌアツ在住の友人たちに伝えてもらいます。
バンジージャンプの起源とされる伝統儀式「ナンゴール」で有名なペンテコスト島。毎年4~6月は多くの観光客が見物に訪れます。サイクロンの発生後、徐々に明らかになる被害状況の中で、ナンゴールの話題がなかなか出てきませんでした。「タワーを組むための木々やツルがないのでは、今年はナンゴールの開催が無理かもしれない」「この時期に1年分の収入を得る島民にとって大きな打撃になるかもしれない」-そんな声が聞こえだした3月の終わり、なんと「予定通り開催する」と連絡が入りました。
幸いなことにナンゴールの行われる南西部は被害が少なく、4月11日にランスッスという村のナンゴールがスタートしました。今年初のナンゴールで、高さ15メートルにもなる最上部から勇敢にも飛び降りたのは、この村のケネディという青年でした。「すばらしい勇気だね。あなたの姿は今のこのバヌアツにパワーを与えてくれたと思う」と話しかけると、彼は少し照れくさそうに笑っていました。
バヌアツに住んで26年、何度かサイクロンを経験していますが、今回は相当な大きさのようです。バナナ、パパイアなどの木々は倒れ始め、グレープフルーツの実はどんどん落ちています。電気は止まりました。車で町の様子を見に行きました。商店はすべて閉まっていると思っていましたが、驚いたことに中国人の雑貨店が数件開いていました。なんという商売根性。大木が何本か電線の上に倒れていて、桟橋では海がすごく荒れています。嵐は一晩で南へと過ぎ去りました。何本もの大木が折れたものの、被害はほとんどないサント島。本当に良かったです。
直前までフェイスブックでこちらの様子を伝えていました。しかし電気が切れ、電話が不通になった2日間、サント島からはまったくの音信不通。近くのリゾートが自家発電で衛星WiFiをやっていると聞き、フェイスブックで自分たちの無事と、サント島の無事を伝えたところ、なんと2万4000ものアクセスがありました。それだけ世界中の人々がサント島の家族と人々を心配していたのであろう。ありがたいことです。美しいサント島以北は被害が最小に済み、それから私は他の島の援助に動き出しました。今も救援を続けています。
4月23日、快晴。サイクロンのダメージが一番ひどかったといわれるタンナ島へ行ってきました。台風の目が島の北から南へ文字通り直撃したタンナ島の被害は甚大でした。個人の家屋はほぼすべて倒壊。コンクリートでできた教会や小学校まで崩れ落ちているありさまです。そんな中、びくともしなかった建物がありました。それはなんとドーム形をしたタンナ島の伝統的な家! なぜ、昔ながらの木造、茅葺の家がこれほど巨大なサイクロンにも耐えられたのでしょうか? 京都大防災研究所で耐風構造の研究をされている西嶋一欽准教授の説明は以下の通りです。
1、柱に使われている木材が非常に太い。現在の日本の2階建ての家でもこれくらい立派な木材を使っている家は珍しい。
2、屋根がドーム形になっている。そのため風の力が上空から地面にかけて働くため破壊されにくい。
3、屋根が地面に設置されていて、軒下がない。軒下があると、そこから風が上に向かって吹き上げ、屋根をふきとばす原因となる。
4、くぎではなくロープを使って接合しているため、揺さぶりにも強い。
長年の生活の知恵とはこういうことを言うのでしょう。タンナで出会う人々もみな口をそろえ、「やはり伝統的な家は強かった。次のサイクロンに備えて、こういう強い家を建てなければ」と気を引き締めていました。(バヌアツ親善大使、フリーアナウンサー 相川梨絵/SANKEI EXPRESS)
■ブログ「相川梨絵のシャララーン劇場」でもバヌアツ生活を公開中。ameblo.jp/aikawa-rie/