ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
科学
性を自由に変えられる魚たち 「男」同士で結婚、出産もOK
更新
恐い顔で人気のシロワニという名前のサメ=2015年5月12日、東京都墨田区の「すみだ水族館」(唐木英明さん撮影) 私たち人間は、生まれたときから男か女か決まっている。成長すると、女は子供を産み、男は子育てを手伝うという役割分担がある。人生の途中で男が女になり子供を産むことは通常はあり得ない。
男と女は、遺伝的な違いや育て方の違いなどによって、あたかも違う生物のように考え方や感じ方の違いが生まれるので、男女の理解はなかなか進まない。
性を決める遺伝子を性染色体と呼び、その組み合わせで男女が決まる。精子はX染色体あるいはY染色体を持っている。卵子はX染色体しか持っていない。受精卵は精子と卵子から1本ずつ計2本の性染色体をもらうのだが、子供の性を決めるのは精子で、Y染色体を持つ精子と卵子が受精すると男の子、X染色体を持つ精子と卵子が受精すると女の子ができる。
もう少し詳しく言うと、胎児の生殖組織は本来は女形で、そのままだと卵巣になり女性ホルモンを放出し、胎児の体と脳に作用して女の体と自覚を生む。一方、Y染色体にはSRYという性決定遺伝子があり、これが胎児の生殖腺組織を精巣に変化させる。精巣は男性ホルモンを放出し、胎児の体と脳に作用して男の体と自覚を生む。体と自覚の性別が違う場合に性同一性障害を生む。
こうして男女ができるので、性別は一生の間変わらないのは当たり前、そう思う人が多いだろう。実際に哺乳類はその通りだが、魚は複雑だ。
メダカは人間とよく似た性決定の仕組みがあり、一生の間、雄と雌が変化することはない。ただ、魚全体でみれば、性決定遺伝子を持っていない(見つかっていないだけかもしれない)方が多数派で、それでも雄と雌ができる。マグロやカツオ、サンマ、サメ、エイなど、私たちがよく知っている魚のほとんどが生涯同じ性のままで過ごす雌雄異体だ。
≪雌雄同体…男女の理解はどれだけ進むだろう≫
一方、タイ、ベラ、ブダイ、チョウチョウウオなどは、一生の間に性を変えたり雄と雌の両方の役割を果たしたりする雌雄同体である。雌雄同体のメリットは、2匹が出合えばすぐに夫婦になって子供が作れることだ。広い海の中を単独で泳いでいる魚は配偶者を見つけるチャンスが少ない。せっかく見つけた相手が自分と同じ性なら夫婦になれないし、子供を作ることができなければその魚は絶滅してしまう。雌雄同体は絶滅を防ぐための効率的な方法なのだ。
ベラやハタなどの群れは雄が1匹だけで、その他のすべてが雌で産卵する。雄は生まれながらの雄ではなく、群れの中で体が一番大きい雌が雄に変化して精子を作り、卵を受精させる。その雄がいなくなると、次に大きな雌が雄に代わる。自分より体が大きい魚がいる限り、雌が雄になることはない。ハーレムには雄が1匹いれば十分なので、この仕組みはとても合理的ともいえる。
こうしてみると、雌雄同体の方がとても合理的に見える。にもかかわらず雌雄異体が存在する理由は何だろうか? 雌雄同体は精巣と卵巣を同時に使うことがないにもかかわらず、いつか必要になるときに備えてその両方をいつも持っていなければならない。無駄な物をかかえているということで、エネルギーを無駄に使っていることになる。雌雄異体の場合はどちらか一方だけ持っていればいいのでエネルギー効率がいいというわけだ。
魚と違って人間は性が変わることはない。自分の体の性別や自覚の性別のどちらかが嫌いでも、現世でそれを変えることは難しい。性転換手術をしても、生物学的に男は男、女は女のままであることに変わりはなく、来世に自分が望む性になりたいと願うだけだ。魚にはそんな悩みは存在しないだろう。人生のある時期に、あるいは出会った相手によって自分の性を変えることができたら、人生はどれほど変わるだろう。男女の理解がどれだけ進むだろう。そんなことを想像しながら魚を見て楽しんでいる。(写真・文:東京大学名誉教授 唐木英明/構成:平沢裕子/SANKEI EXPRESS)