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【アメリカを読む】人民元のIMF構成通貨入り 米中論争

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【アメリカを読む】人民元のIMF構成通貨入り 米中論争

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財務省での会合で、ジャネット・イエレン米連邦準備制度理事会議長(左)と言葉を交わすジャック・ルー米財務長官。ルー氏は、人民元のIMF構成通貨入りにはなおも慎重なスタンスを保っている=2015年5月19日、米国・首都ワシントン(ロイター)  中国の通貨、人民元の国際的な地位をめぐって、米中間で国際通貨基金(IMF)を巻き込んだ論争が広がっている。中国は国際的な主要通貨のステータスを得るため、IMFの準備資産(特別引き出し権、SDR)の構成通貨に人民元を加えるよう要求。一方、米国は人民元相場の水準が中国政府にコントロールされていることなどを理由に人民元の準備資産入りに否定的だ。第二次世界大戦後の国際金融の盟主として振る舞ってきた米国と、存在感を増してきた中国との軋轢(あつれき)が通貨という舞台でも高まっている。

 要件に為替相場の柔軟性

 「人民元はもはや過小評価されていない」。IMFのデビッド・リプトン筆頭副専務理事(61)は5月26日、北京での記者会見で、中国が人民元安を誘導して不当に輸出を後押ししているとする長年の批判を否定した。

 人民元相場は2005年の固定相場制度廃止後、対ドルレートで約25%人民元高に振れている。これに伴い中国の経常黒字の対国内総生産(GDP)比も07年の10%から14年には2%まで下がった。リプトン氏は「中国は大きな前進を見せた」と貿易不均衡の縮小を評価する。

 リプトン氏の発言の重要性を理解するには、中国が人民元の地位向上を目指し、IMFの準備資産の構成通貨に人民元を加えるよう求めてきたことを念頭に置く必要がある。

 IMFの準備資産は通貨危機時などに加盟国同士の通貨交換などに使われ、現在はドル、ユーロ、ポンド、円の4通貨で構成されている。構成通貨に採用されることは、それだけ信用度の高い通貨であることの証しだ。そして国際金融の世界では構成通貨の要件として、為替相場の柔軟性などが挙げられてきた。

 「過小評価されたままだ」

 IMFは年内に5年に一度の構成通貨の見直しを行う。今回、リプトン氏が人民元相場の水準を適正と認めたことは、人民元が構成通貨入りに近づいたことを意味する。クリスティーヌ・ラガルド専務理事(59)も3月に「加えるかどうかの問題ではなく、いつ加えるかの問題だ」と述べており、人民元の構成通貨入りに向けた機運を後押しした。

 また中国側も構成通貨入りに向けた布石を打っている。中国人民銀行(中央銀行)の周小川(しゅう・しょうせん)総裁(67)は4月の声明で、資本取引を自由に行えることが構成通貨の条件の一つとされることを踏まえ、「中国は人民元の資本勘定の自由度をさらに高める一連の改革を準備している」と表明。具体例として個人投資家に海外証券資産への投資を認める新たな制度の試験的な導入や、香港証券取引所と広東省の深●(=土へんに川、しんせん)証券取引所との越境取引制度の立ち上げなどを挙げた。

 しかし、これだけで人民元の構成通貨入りが決まったと考えるのは時期尚早だ。人民元相場は中国人民銀行が決める基準値に対する変動幅が設定されている「管理変動相場」で、ドルや円など他の構成通貨が採用する完全な変動相場とは異なる。いくら中国が改革姿勢をアピールしても、国際通貨の資格に欠けることも事実だからだ。

 また最近は中国経済の減速を受けて人民元高の流れが弱まっており、米財務省高官は「中国にはまだ成すべきことがある。人民元はかなり過小評価されたままだ」と断じる。

 AIIB設立で示した力

 ロイター通信によると、ジャック・ルー米財務長官(59)は5月27日、訪問先のロンドンで記者団に対して「中国は本当に市場が為替レートを決めることを受け入れるのか」と発言。人民元の構成通貨入りには、中国経済が力強さを取り戻した場合、中国が現状からの人民元高を容認するかどうかを見極める必要があるとの見方を示した形だ。

 またドイツのウォルフガング・ショイブレ財務相(72)は29日、ドレスデンで開かれた先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議後、「G7は人民元の構成通貨入りは原則として望ましいものだということで合意した」と述べた。しかし一方では技術的な問題が残っているとも指摘。今年の見直しで人民元の構成通貨入りが決まるとの見方は「楽観的に思える」と話した。

 ただし中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備では、米国の反対をよそに57カ国もの参加を集め、国際金融における影響力を示した。当初はAIIBから距離を取ることで一致していたG7からも、最終的には英仏独伊がAIIB参加を決めた。一方の米国はIMF内で途上国の発言力を強めるための改革を妨害しているとの批判も受けており、人民元の構成通貨入りについて「親中国」の流れが強まる可能性もある。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS

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