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「天安門」への認識 香港民主派に亀裂  

 中国・北京で民主化運動が武力弾圧された天安門事件から26年となった4日、香港中心部のビクトリア公園で毎年恒例の追悼集会が開かれたが、主催者発表の参加者は昨年の18万人超から大幅減となる13万5000人にとどまった。香港の若者の「脱中国」志向と「香港人アイデンティティー」が強まる中、中国とは距離を置いて香港の民主化を優先すべきだとの声が勢いを増していることが背景にある。

 「学連」が追悼集会不参加

 1989年6月4日の天安門事件につながる中国の学生らの民主化運動を後押ししたのは、当時まだ英領だった香港の学生や事業家、文化人らによる支援だった。事件後、香港では四半世紀にわたり大規模な追悼行事が続いてきた。

 ところが天安門事件への認識をめぐって今、香港の民主派勢力に“亀裂”が生じている。その象徴的な動きが、昨年、次期行政長官選挙をめぐり真の普通選挙実施を求めて2カ月半の街頭占拠を主導した学生団体「香港専上学生連会(学連)」による追悼集会への不参加だ。

 学連は、集会を主催する民主派団体が「民主的な中国の建設」を掲げていることに反発し、香港の民主化を優先することを主張。一部学生組織は各大学のキャンパスなどで独自に追悼行事を行った。

 昨年の抗議活動が明確な成果を得られないまま収束したことへの焦りが、学生らの強硬な姿勢につながっているようだ。

 追悼集会の内容も、今年はより先鋭化した。一部の参加者は昨年の街頭占拠の際に警官隊の催涙スプレーから身を守るために使われ抗議運動のシンボルになった黄色い雨傘を掲げて参加。例年歌われてきた中国本土の歌は追悼会場から消えた。

 「隣人の事件」

 「天安門で起きたことは隣人の事件であり、われわれの事件ではない。追悼集会が中国の民主化を掲げる限り、二度と参加することはない」

 米紙インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ(INYT、アジア版)は、今年初めて追悼集会への参加を見送った20歳の男子大学生のコメントを紹介した。INYTは、香港の若者が「親近感を感じていない中国で、彼らが生まれる前に起きた出来事」について記念する必要性を感じていないと指摘する。

 INYTによれば、香港大が昨年末に実施した調査では香港在住者の42.3%が自分たちを「香港人」と考えており、「中国人」と認識しているのは17.8%に過ぎなかったという。INYTは「香港人の中国への幻滅が、より多くの自治と、さらには独立要求まで引き起こしている」と分析する。

 脱中国、強まる分離志向

 香港紙、明報(電子版)は、天安門事件の追悼行事が“分裂”したことを、民主化運動の衰退ととらえたり、中国政府に有利なことだと解釈したりするのは「木を見て森をみない」行為だと指摘する。

 明報は、こうした香港の若者の動きは中国政府と中国共産党政権への反発から来ており、その「分離」志向は強まり続けていると分析。香港の若者世代は中国にアイデンティティーを感じておらず、香港は中国の一部であるとの考えに懐疑的で、中国本土に多くのマイナスイメージを持っているとし、「中国政府が香港政策で圧力を強めるほど、大きな逆効果を生んでいる」と指摘する。

 中国の民主化を非現実的だと疑問視し、まずは香港における真の民主主義を確立することに集中すべきだと考える香港の若者たち。ただ、こうした民主化運動の“内向き化”に懸念を示す声もある。米AP通信は追悼集会に参加した19歳の大学生の声を紹介した。

 「もちろん、われわれは香港で民主化のために戦わなければならないが、それは中国の民主化のために戦わなくてもよいということではない。その2つは矛盾しない」

 追悼集会の主催団体で中心的な役割を果たしている香港の民主派議員、李卓人氏(58)も中国の民主化を支援する必要性を強調している。

 「中国がわれわれ(香港)を変える前に、われわれが中国を変えなければならない」(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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