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入り乱れる感情描ききる新作 LOST IN TIME
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3人組ロックバンド、ロスト_イン_タイム(提供写真) 音源を手渡された時、ボーカルでソングライターの海北大輔は「このアルバムは、流し聴きさせない自信があるよ」と言い切った。なるほど作業する手が止まるほど、聞き入ってしまうアルバムだ。言葉の強さ、メロディーの明解さ、そして全体を通して音楽をしっかりと人に届けるために配慮された多様なアレンジが秀逸である。曲によってはスケール感を、別の曲ではミニマムに歌とメロディーを、時にピアノのきれいな音色やギターの荒々しくひずんだ音を取り入れ、それぞれの曲の個性を最大限に引き出している。計算しつくされた緻密な部分だけでなく、あふれ出る熱、人間味のようなものも同じように収録されているように感じる。
このアルバムで特に感じるのは、すべての曲が良い意味でばらばらであること。それは、本人たちがバンドや作品に対して「こうあるべきだ」というイメージに縛られることなく、人間の持つ喜怒哀楽、気分の浮き沈みなど、人として生きる上で不可避な多面性を、臆せず表現しているところからくるようで、海北本人はアルバムに寄せて「一つ一つの気持ちに素直になった結果です。一曲一曲の思いにこんなに『矛盾』をはらんだアルバムは初めてかもしれません」と語っている。
そもそもLOST IN TIMEの作品性は時期によってさまざまで、歌を静かに伝えていた時期、ギタリスト脱退をきっかけに5人編成になってパワフルなバンドサウンドと力強いメッセージをボーカルのインパクトを意識しながら歌っていた時期、そして年を重ねたことで見えてきたさまざまな景色を表現した時期とあるが、すべての作品で共通していたのは、時々の違いはあれど、一つの世界観、一つの表現にまとまっていたことだった。今作で見せた素直な矛盾は、それらを一つの作品にまとめ上げるためにメンバーやエンジニアとの絆や信頼関係を音に昇華できたという、バンドの状態の良さを見せつけることにも、結果的に繋がっている。
積み重ねたキャリアと、このメンバーだからこそ到達できた表現は、いろいろな感情が入り乱れる日々を過ごしているのに、それらをさらりと最大公約数的なメッセージに集約してしまうあざとさより、矛盾をはらんだ考え、不安や孤独、現状への嘆き、秘めた恋心、未来への希望まで、ありったけの表現で描ききる方が、リアルに聴く者の感情に訴えかけるのではないか。その日その時の心の扉とリンクする「DOORS」というアルバムに、耳と心を預けてみてほしい。(音楽評論家 藤田琢己/SANKEI EXPRESS)