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経済
東京海上 9400億円で米大手買収 生損保、海外展開の成否が生き残りの鍵に
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記者会見する東京海上ホールディングスの永野毅(つよし)社長=2015年6月10日午後、東京都千代田区(共同)
東京海上ホールディングス(HD)は10日、米保険会社HCCインシュアランス・ホールディングス(デラウェア州)を買収すると発表した。買収額は約75億ドル(約9400億円)。国内の保険会社による海外企業の合併・買収(M&A)では過去最大となる。子会社の東京海上日動火災保険を通じてHCC社の全株式を取得し、年内に買収を完了する予定だ。
HCC社は米国や英国、スペインなどで事業を展開し、会社役員賠償責任保険や農業保険など専門性の高い「スペシャルティ保険」に強みを持つ。東京海上が扱っている商品と重複が少ないことから、買収による相乗効果が高いと判断した。
これまでは第一生命保険による今年2月の米中堅生命保険会社プロテクティブ生命の買収(約5750億円)が業界最大だった。東京海上HDは2008年と12年にも1000億~5000億円規模の資金を投じて欧米の複数の保険会社を買収したが、少子高齢化などで国内の事業環境が厳しいことから、収益拡大に向けて海外事業を一段と強化する。
東京都内で記者会見した東京海上HDの永野毅社長は「HCC社は専門性の高い事業を多数手掛けており、収益が安定している」と説明。「国内と国外の事業が支え合う構造をつくりたい」とも強調し、大規模な自然災害で保険金の支払いが膨らむリスクなどに対応するため、海外でのさらなるM&Aに意欲を示した。
東京海上HDが保険事業で稼ぐ利益に占める海外の比率は15年度予想で38%だが、HCC社の事業を単純合算すると46%になる。
≪生損保、海外展開の成否が生き残りの鍵に≫
東京海上HDが、約9400億円という巨額の資金を投じて米保険大手を買収するのは、人口減少で国内市場は成長が期待できないためだ。他の国内金融大手も海外で大型買収や出資を加速させており、海外展開の成否が生き残りの鍵を握る時代が到来した。
東京海上HDは2008年と12年にも欧米で複数の保険会社を買収しており、損害保険の中で海外進出に最も積極的だ。
生命保険では、第一生命保険が米中堅プロテクティブ生命を約5750億円で買収。売上高に当たる保険料等収入で第一生命に業界首位の座を奪われた日本生命保険も巻き返しに向け、大型買収を狙っている。
大手銀行では、三菱UFJフィナンシャル・グループがリーマン・ショック後に米モルガン・スタンレーに約9000億円出資した。その後、タイのアユタヤ銀行を約5360億円で買収。15年3月期連結決算で、邦銀初の純利益1兆円突破の原動力となった。
国内市場は人口減少に加え、日銀による大規模金融緩和の影響で超低金利状態が長期化しており、十分な収益を上げづらい環境が続いている。国内金融大手は巨大市場の北米や、成長が期待できるアジアを中心に今後も事業拡大を狙うとみられる。
ただ、買収候補の争奪戦は激しく、円安もあって買収額は巨額になっている。
業界で過去最大となる今回の買収について、東京海上HDの永野毅社長は「コストを払わないことには、良い相手は見つからない」と述べ、金額に見合った買収効果があると強調したが、グループ全体に占める海外事業の比率が高まれば、その分、海外経済の変動リスクや地政学リスクも増大する。(SANKEI EXPRESS)