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規制改革会議180項目答申 「不当解雇の金銭解決」検討 労使納得の補償金や乱用防止策など課題

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規制改革会議180項目答申 「不当解雇の金銭解決」検討 労使納得の補償金や乱用防止策など課題

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規制改革会議で、挨拶する議長の岡素之(おか・もとゆき)氏(右から3人目)と安倍晋三(しんぞう)首相(右から2人目)=2015年6月16日午後、首相官邸(斎藤良雄撮影)  政府の規制改革会議(議長・岡素之(おか・もとゆき)住友商事相談役)は16日、耕作放棄地の課税強化や「医薬分業」の一部緩和による病院敷地内の薬局併設など約180項目を盛り込んだ規制緩和策の答申をまとめ、安倍晋三首相に提出した。政府は答申を基に実施計画策定に着手する。計画は新成長戦略に反映され、今月末に閣議決定する方針だ。

 答申は「健康・医療」「雇用」「投資促進」「農業」など5分野からなる。答申を受けた安倍首相は「大胆な規制改革を通じて、多様性あふれる新たなビジョンを生み出していきたい」と述べた。

 耕作放棄地の課税強化は、農地の固定資産税が他の土地よりも低いことから、税負担を重くすることで、農地を集約させ、大規模な営農をしやすくする狙いがある。農業をやめた農家らから農地を借り集め大規模経営を目指す企業や法人に貸し出す「農地中間管理機構(農地バンク)」を活用するようにする。

 病院と薬局を同じ建物や敷地内に併設しないとする「医薬分業」に関して、薬局の経営の独立性確保を前提に参入規制を一部緩和し、病院の敷地内に薬局を併設することを認める方針も示した。雇用では、不当解雇をめぐる紛争の早期解決に向け、企業が労働者に対して金銭補償を行うことで解決を図る制度の導入検討を明記した。

 理容室と美容室が別々の施設で営業しなければならない規制も見直し、従業員全員が理容師と美容師の両方の資格を持つことを前提に兼業店舗として営業することが可能になる。

 使われなくなった校舎を宿泊施設など本来の目的以外の用途で使用できるよう建築基準法改正を図ることや、地熱発電の開発促進に向け国立・国定公園内での建築物の高さ制限を緩和することも盛り込んだ。

 ≪労使納得の補償金や乱用防止策など課題≫

 政府の規制改革会議は16日の答申で、不当解雇と判断された際、労働者から申し立てがあれば金銭補償で解決する制度の導入に向けて有識者による会議の新設を盛り込んだ。解決金制度をめぐっては、「紛争解決に向けた選択肢が増える」と歓迎する経営側と「運用によっては簡単に解雇できる仕組みになる」と反対する労働組合側が対立してきた。労使双方が納得する補償金の基準や制度の乱用防止策など、有識者会議の取り組む課題は大きい。

 今回の解決金制度は、裁判で解雇が不当だと認められた後に、労働者が退職を申し出た場合に金銭で補償する「事後型」だ。裁判を行わず、企業側が支払いを条件に解雇を実施する「事前型」は解雇の乱用の懸念が強いとして、対象外になっている。

 労働者は、裁判で不当解雇が認められても、会社との信頼関係が損なわれており、職場復帰は現実的には難しい。退職を選択しても、補償金を受け取れなかったり少額だったりすることが多い。補償金で解決するルールを明確にし、労働者の泣き寝入りを防ぐなどの狙いがある。

 経済同友会の小林喜光代表幹事は16日の記者会見で「(紛争解決の)予見が可能になり、前向きにとらえていい」と評価。

 これに対し、日本労働弁護団事務局長の菅俊治(すが・しゅんじ)弁護士は「不当解雇の抑止力がなくなる」と訴える。不当解雇だと分かりながら、補償金を払えば紛争を解決できると考える企業が増える懸念があるからだ。制度が導入されている欧米では補償金が年収1~2年分なのに対し、日本の中小企業では数カ月分しか出せないといった現実もある。

 それだけに、海外の事例を検討することで、双方が納得できる制度に運用面などで対処する必要がある。

 ≪医薬分業見直し 厚労省が歩み寄る≫

 政府の規制改革会議は16日にまとめた答申で、医師が患者に処方箋を出し、薬局が処方箋をチェックする「医薬分業」の見直しを打ち出した。焦点だった病院敷地内での薬局併設を認めない規制について緩和するよう求めた。厚生労働省は当初、薬局の独立性を維持するため規制緩和に難色を示していたが、利便性の観点から歩み寄った。

 答申では、薬局併設を認める規制緩和を、2016年度にとるべき措置として明記。薬局の独立性にも配慮し「実効ある方策を講じる」ことを求めた。また「医薬分業」の現状については「医療機関の周りに門前薬局が乱立し、薬局に求められる機能が発揮できていない」と指摘。患者に身近な「かかりつけ薬局」の普及を含めた薬局改革の推進を促した。

 医薬分業は病院側による過剰投薬などをチェックするために厚労省が推進してきた。構造上も明確にするため、病院と隣接する薬局の間にフェンスの設置などの規制があり、患者は薬局に行くのにいったん道路に出る必要がある。会議側は「患者本位ではない。高齢者にとって不便だ」と指摘し、規制緩和を求めていた。

 厚労省が会議側の主張に折れたのは「院外処方」の薬局への調剤報酬を手厚くしてきたが、患者側はメリットを実感していないとの指摘が多いからだ。厚労省は門前薬局の報酬を減らす一方、薬の飲み残し防止などに取り組むかかりつけ薬局機能を評価する方針。16年度の診療報酬改定で反映し、普及を後押しする。(SANKEI EXPRESS

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