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【安倍政権考】準備と経験 存在感示したサミット
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エルマウ・サミットで、会場に向かう(左から)安倍晋三(しんぞう)首相、アンゲラ・メルケル独首相、バラク・オバマ米大統領=2015年6月7日、ドイツ・エルマウ(ロイター=共同) 「今日、世界には力による現状変更、暴力的な過激主義の脅威、感染症やサイバー犯罪などの非伝統的な安全保障上の脅威が存在する。そういう中で、グローバルな視点から国際社会のガバナンスに責任ある形で対応できるのはG7(先進7カ国)であり、われわれには基本的価値を守り、子孫にしっかりと引き渡していく責任がある」
6月7日、ドイツ南部のエルマウ城で開かれた主要国首脳会議(サミット、G7)。世界経済に関する第1セッションの討議の冒頭、議長国ドイツのメルケル首相(60)から指名を受けた安倍晋三首相(60)は、こう発言の口火を切った。それはウクライナ情勢におけるロシア、南シナ海での岩礁埋め立てを強行する中国を特に意識したものだった。
この発言に続き、安倍首相は政権の経済政策「アベノミクス」の実績と今後の展望を時間をかけて説明。これに対して、他のG7首脳が相次いで発言し、構造改革や経済連携、移民政策などへ議論が展開していった。
その後、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)へ話題を展開させたのも安倍首相だった。「インフラ投資は適切なガバナンスの下で行われなければならない」と指摘した安倍首相の発言をきっかけに、G7首脳は中国経済をテーマに議論を始めた。AIIBについては、安倍首相が「参加、不参加にかかわらず、情報共有などで連携して対応しよう」と提案し、同意が得られた。
外交政策を議論したワーキングディナーでも、南シナ海などアジア情勢に関して安倍首相が問題提起し、中国の岩礁埋め立てに対し、G7首脳として「強い反対」との意見をまとめ上げた。サミット前には、さまざまなテーマでG7の結束に懐疑的な見方が強かった中、AIIBや南アジア情勢などで意見の一致をみることができたのは、安倍首相にとって大きな成果といえる。
その内幕について、同行筋は「事前に議長国のドイツから、第1セッションの冒頭、安倍首相にある程度まとまった時間を取って発言の機会を与えると打診があった」と明かす。サミット冒頭の基調発言は2日間の討議全体のムードを決定づけるものであり、首相は、議論の展開のシミュレーションも含め、入念な準備の上で本番に臨んだ。サミット前日夜も、日本政府関係者による夕食会を早々に切り上げて、発言のチェックをしていたほどだったという。
「サミットは独特の雰囲気で、シナリオ通りに進む通常の首脳会談とは違って、各国の首脳のアドリブの要素が大きい」と話すのは政府高官。海千山千の欧米首脳を前に議論をリードするには、入念な「準備」とともに、場数という「経験」も必要となる。
安倍首相は、第1次政権も含め、今回が4回目のサミット出席だった。場の雰囲気を壊さずに、ここぞという場面で発言できるかどうかは、政治家としての勘がものをいう。
安倍首相の発言が他のG7首脳から注目を集め、成果物である首脳宣言にも盛り込まれたということは、安倍首相が効果的に発信できたということだろう。G7首脳でサミット会場の周辺を散策した際も、安倍首相は何の気負いもなく各国首脳と話し込めるほどサミットの場になじんでいた。G7閉幕後、安倍首相は周辺に「なかなかいい議論ができた」と満足そうだったという。
来年は「伊勢志摩サミット」。ホスト国として、G7首脳との議論に臨むのあたって求められるのもまた、入念な準備と今回の成果も含めた経験値である。(桑原雄尚/SANKEI EXPRESS)