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【安倍政権考】安保法制論議 いつまで続く本質から外れた「リスク」論

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【安倍政権考】安保法制論議 いつまで続く本質から外れた「リスク」論

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答弁をめぐり再三審議が中断した衆院平和安全法制特別委員会。左から岸田文雄外相、中谷元(なかたに・げん)防衛相=2015年6月10日午後、国会・衆院第1委員室(酒巻俊介撮影)  集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案をめぐる国会審議は、安倍晋三首相(60)が先の訪米で公約したように今夏までに成立させたい政府・与党に対し、民主党をはじめ野党は廃案に追い込みたい考えだ。しかし、国会の論戦からは、この国をいかにして守り抜くのかという根本的な視点が欠けている。

 堂々めぐりの議論

 「厳しい現実から目を背けることはできない。日本人の命と平和な暮らしを守るため、あらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行う」

 安倍首相は5月14日、安保関連法案の閣議決定後、記者会見に臨み、その必要性を強調した。確かに日本の防衛に関する法制にはいくつもの「切れ目」が存在する。安保関連法案の主眼は、この「切れ目」をなくし、あらゆる事態に対して国家と国民を守れる防衛体制を構築することだ。

 背景には、軍事的膨張を続ける中国と北朝鮮が東アジア情勢を緊迫化させているほか、地球規模で国際テロや紛争が起きるリスクが、これまで以上に高まっていることがある。こうした脅威に対して、抑止力を高めるには、集団的自衛権行使の限定的な容認をはじめ、自衛隊の役割を拡大し、米国との同盟関係をより強固にすることが求められているのだ。

 しかし、安保関連法案を審議する衆院平和安全法制特別委員会では、自衛隊の活動拡大による「リスク」や、自衛隊の手足を縛る「歯止め」ばかりが焦点になり、本質的な議論が欠けていると言わざるを得ない。

 衆院憲法審査会で自民党推薦を含め3人の参考人全員が関連法案を「憲法違反」との認識を示したことで、野党側は、昨年7月に政府が閣議決定した憲法解釈見直しの問題まで蒸し返そうとするなど、攻勢を強めている。

 もちろん、自衛隊のリスクは政治の責任で極小化しなければならないし、派遣すべき明確な理由がなければならない。だが、自衛隊を派遣することで国益が守られるという視点を忘れてはならない。

 一部の野党が問題視する「歯止め」については、それが行き過ぎれば、自衛隊の行動を過度に制限して、力による現状変更を試みようとする相手を利することになる。

 与党の責任とは

 与党側も野党が批判する「自衛隊のリスク」や「歯止め」に対する懸念を払拭することに執着しすぎてはいないか。与党が本来、国民に訴えるべきは、安保関連法案の意義であるはずだ。そもそも日本人の生命と平和な暮らしを守るための法制に反対する国民がどれほどいるだろうか。

 安保関連法案が成立すれば、自衛隊は同盟国の米軍をはじめオーストラリア、インドといった友好国と、集団的自衛権を行使すべき事態を見据えた共同訓練を行うことができる。急速に緊迫の度を高める東アジアの情勢を踏まえれば、自衛隊と友好国軍の戦術や技量を向上させることが急務だ。

 力による現状変更の試みを止めるため、関連法案の成立は一刻の猶予もない。こうしたことを堂々と訴えるべきだ。

 安倍首相の祖父、岸信介元首相は1960年、日米同盟をより対等なものに近づける日米安全保障条約改定を成し遂げた。当時、安保改定反対のすさまじいデモに、アイゼンハワー米大統領来日を断念せざるを得ず、岸氏は退陣を決断した。これ以降、自民党は安全保障をタブー視するかのような後遺症が続いた。

 安倍首相が記者会見で「時代の変化から目を背け、立ち止まるのはもうやめよう」と呼びかけたように、欠陥だらけの防衛法制を放置することはもはや許されない。これまで安全保障論議に臆病だった日本が「本気になった」と思わせること自体が抑止力につながる。今、与党に求められているのは、その決意だ。(峯匡孝/SANKEI EXPRESS

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