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社会
日本のマスコミ研究、国際化へ一歩 渡辺武達
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同志社大学で講演するジャネット・ワスコIAMCR(国際メディアコミュニケーション研究学会)会長=2015年6月14日(小黒純さん撮影、提供写真)
13、14日の2日間、同志社大学(京都)において日本マス・コミュニケーション学会春季研究発表会が開かれた。この学会は、1951年に「新聞、放送、雑誌など従来の学問の取り扱い得なかった普遍的精神交通を学的領域」として発足した「日本新聞学会」を前身とし、92年度から「新聞」だけではコミュニケーション過程の誤解につながるということで名称変更された。現有会員約1200人で、この分野で日本を代表する学会である。
春秋2回の全体発表会があり、今回も若手学者を中心とした個人発表と、今日的要請に応える新聞やテレビの社会的責任論のシンポジウムのほか、スマートフォン利用時間は機械で測定すれば自己申告の約半分といったワークショップなど多彩なメニューで行われた。いずれも貴重な内容だが、今回取り上げたいのは国際メディアコミュニケーション研究学会(IAMCR)のジャネット・ワスコ会長(米国オレゴン大学教授)による招待講演と、今後の日本のメディア研究の国際化進展についてである。
コミュニケーション自体はパソコンの低廉化とインターネットの日常化により、物理的には国境や社会層の障害をほぼ克服したといってよいが、現実には言語の違いや使用目的、それを管理したい政府やビジネスの論理、人々による「未熟な利用法」などによって新たな問題を引き起こしている。問題の一つに、日本の社会的コミュニケーション研究そのものが諸外国との交流が進んでいないことがある。
筆者はワスコ会長の来日から離日までの5日間、公私にわたるお世話をしたが今回はその体験を基に、メディア・コミュニケーション研究の国際連携のあり方について記しておきたい。
世界的なメディア研究学会には、IAMCRの他に国際コミュニケーション学会(ICA、1950年発足)があり、ともに信頼性が高い。後者はNGO(非政府団体)として国連と協調しているものの、実態は米国中心であるのに対し、前者は1950年代初期の発足以来、ユネスコ(国連教育科学文化機関)との連携で、発展途上国のコミュニケーション過程の問題解消を課題とするなどよりグローバルな活動を展開し、会員の国籍も100カ国以上である。ちなみに日本の学会は日本在住の数カ国の外国人だけ。
また、初日夜の懇親会で日本側の谷藤悦史(たにふじ・えつし)会長(早稲田大学教授)に続いて挨拶に立ったワスコ会長は会場を見渡して開口一番、日本の学会はまず女性会員の拡大に努力してほしいと述べ、男性参加者が9割以上を占める会場がどっと沸いた。先進各国にはメディア学会はどこにもあり、筆者自身の講演などの体験でも男女による参加者の偏りはあまりない。IAMCRでも先述したこの分野の他の大きな学会であるICAでも現在の会長は女性である。ところが、日本ではこれまで女性が会長になった例はない。
また研究活動自体にも、IAMCRの発足そのものがユネスコとの連携で始まり、ICAも国連の情報関係NGOとして活発に活動してきている。メディアと情報が実態として国境を越えて動き、組織的にそうした状況に対応している学会があるのに、日本のメディア研究の国際化は個人の意欲と努力レベルにとどまってきたということだ。
ところがテレビ制作の現場や新聞記者たちの使っている機器は世界中のほとんどの国で日本メーカーのものである。文化でも若者世代には日本のアニメや漫画のほか、ファッションなどの「カワイイ文化」も、世界中にファンがいる。知られていないのは、日本の政治や社会の実態だけではなく、こうしたカルチャーを発信すべきメディアの研究そのものであり、私たちの努力すべき課題は多い。
しかし帰国されたワスコ会長からの連絡ではIAMCRの次回理事会に、ワークショップ「日本のメディア研究」開催を提案し、日本の学者の協力で来年度、英国で開催される全体発表会で実行する計画であるという。日本のメディア研究のグローバル化に向けた問題改善の兆しが見え喜ばしい。(同志社大学名誉教授 メディア・情報学者 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS)