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政府 骨太方針など閣議決定 「成長頼みの財政再建」 潜むリスク
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経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議で挨拶する安倍晋三(しんぞう)首相(左から2人目)。左端は甘利明(あまり・あきら)経済再生相=2015年6月30日午後、首相官邸(酒巻俊介撮影) 政府は30日、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)と新たな成長戦略を規制改革実施計画とともに閣議決定した。年末の予算編成に反映させる。骨太方針に盛り込んだ「経済・財政再生計画」では、社会保障費を含む一般歳出について具体的な削減額を示さず、過去3年間の社会保障費の伸びを1.6兆円に抑えてきた実績を「目安」として継続する方針を打ち出した。経済の好循環実現に向けて「経済・財政一体改革」を目指す。
臨時閣議に先立って開かれた経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で安倍晋三首相(60)は「この好機を逃すことなく、経済・財政一体改革を不退転の決意で断行していく」と述べた。
2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化を目指す経済・財政再生計画では18年度までの3年間を集中改革期間と位置づけた。
国内総生産(GDP)比のPB赤字を現状の3.3%から18年度に1%程度に低下させる「中間目標」を設定した。17年4月に予定される消費税率の10%への引き上げで懸念される景気の腰折れを回避するためにも、中間目標時点で達成状況を評価し、計画が未達の場合は歳出・歳入両面で追加措置も検討する。諮問会議の下に設置される専門調査会が計画の進捗(しんちょく)・管理を行う方針だ。
新たな成長戦略では、人口減少が進む中での成長促進策として、人材育成や女性活用策、国立大学の経営力強化に向け大学間競争の活性化を促す「大学改革」や、ロボット技術の開発などを柱とした。規制改革実施計画では、病院と薬局を同じ建物や敷地内に併設しないとする「医薬分業」について、薬局の経営の独立性確保を前提に規制を一部緩和する。
≪「成長頼みの財政再建」 潜むリスク≫
30日に閣議決定された経済財政運営の指針「骨太方針」は、2020年度のPBの黒字化達成の主眼を、経済成長による歳入増に置いている。政府の“強気”ともいえるシナリオに対し、リスクを指摘する声もある。
PB均衡には20年度に16.4兆円の収支改善が必要で、実質2%の経済成長で税収が7兆円増え、歳出カットや成長戦略の効果で9.4兆円を捻出するのが政府の基本方針だ。
ただし、高成長が実現すれば金利上昇も招き、国債の元利払い費も増える。内閣府の2月時点の試算によると「名目GDP成長率3%」のケースでは、20年度の税収は16年度の56.4兆円から68.4兆円にまで増加するが、国債費も15年度の23.5兆円から37.0兆円になると見込まれる。
経済・財政再生計画の行方は日銀の政策にも大きな影響を及ぼしかねない。市場関係者は「日銀は、PB黒字化を目指す32(2020)年度まで大規模金融緩和をやめられなくなった」とみる。財政再建の前提として、低金利が保たれ、2%程度の物価上昇が安定的に続くことが求められているからだ。
現在の日本の潜在成長率が1%に届かない中、日銀は16年度前半ごろに2%の物価上昇目標を達成すると想定している。市場では、「経済成長頼みの財政再建策では財政規律が緩む」との声も上がる。
国債を大量に買う日銀の大規模緩和が国の借金を肩代わりする「財政ファイナンス」とみなされる恐れが強まり、物価上昇率が2%に近づくにつれて「出口」が意識され、低く抑えられている国債金利が跳ね上がる可能性も高まる。「日銀は緩和解除の検討すら許されなくなった」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)
17年4月に消費税を再増税すると、景気の腰折れも懸念されるとの理由で「緩和縮小どころか、政府から景気刺激策として追加緩和を求められる可能性も出てくる」(みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミスト)と分析する。
PBは、小泉純一郎政権の03年度から赤字幅が縮小していたが、08年秋のリーマン・ショックを機に大幅に悪化した。ギリシャのデフォルト(債務不履行)危機に加えて、中国の景気減速が日本経済に波及すれば、経済成長を頼りとする政府シナリオは画餅に終わる可能性もある。(SANKEI EXPRESS)