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クラゲが解いた生命の謎 発毛剤や「あの薬」開発にも貢献

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クラゲが解いた生命の謎 発毛剤や「あの薬」開発にも貢献

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紫外線の刺激で光るオワンクラゲ=2015年4月30日、山形県鶴岡市の加茂水族館(唐木英明さん撮影)  クラゲの水族館として有名な加茂水族館(山形県鶴岡市)では、2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩(おさむ)博士(86)の研究で知られるオワンクラゲが光を放つ姿を見ることができる。

 オワンクラゲは刺激すると光るのだが、どんな物質が光を出すのか分かっていなかった。下村博士は家族総出でオワンクラゲを捕まえに出かけ、100万匹ものクラゲから光る物質を抽出、それがタンパク質であることを1962年に発見した。

 この研究が元になり、カルシウムと結合すると光を出す新たな物質が85年に発見された。これを細胞に入れて光を測定すると、カルシウムの増減と細胞の働きを同時に知ることができる。カルシウムを研究していた筆者は、世界に先駆けてこの物質を使い、多くの発見ができた。つまり、筆者の研究は、遡(さかのぼ)れば下村博士のオワンクラゲの研究あってこそなのだ。

 筆者の研究についても少し説明しよう。カルシウムは骨や歯の材料になる大事な栄養素だが、細胞内に入ると強い毒性を発揮する。このため、血液や体液には多量のカルシウムが含まれているのに、細胞内にはその1万分の1しかない。なぜこんなことになったのだろうか。工学を目指したのにどこかでまちがえて獣医学に進学した東京大学で、62年に卒論研究として始めて、結局定年まで続いた研究が、このカルシウムの謎を解くことだった。

 ≪発毛剤や「あの薬」開発にも貢献≫

 細胞内にカルシウムがほとんどないのは、生命の誕生と関係している。生命体が誕生した原始の海はアルカリ性で、カルシウムは炭酸カルシウムとして沈殿してしまい、海水中にほとんどなかった。そんな海で生まれた生命体はカルシウムに対して無防備だった。

 その後、海水は徐々に中性になり、炭酸カルシウムの沈殿が解けて海水のカルシウム濃度が増えていった。カルシウムの毒性で死に始めた生命体は、生き残るために、カルシウムが通過できない厳重な細胞膜を作った。その結果、細胞内のカルシウムを低く保った現在の生物の形が完成したのだ。

 細胞はまた、細胞膜に小さな穴を作って微量のカルシウムを細胞に入れる仕組みを作った。猛毒のカルシウムが少しでも増えると細胞は興奮して、筋肉や血管は収縮し、神経は伝達物質を放出する。カルシウムが不足すると動脈硬化やイライラなど精神的に不安定になることもある。これは、細胞の外側のカルシウムが少なくなると細胞にカルシウムが入りやすくなるという仕組みがあるためだ。

 筆者の研究の一つは、カルシウムを通す小さな穴を塞いで血管を拡張させる高血圧治療薬の開発だが、これが男性機能を向上させる薬や発毛剤としても実用化されている。そしてこれも一見科学と無関係に見えるクラゲのおかげなのだ。(写真・文:東京大学名誉教授 唐木英明/構成:文化部 平沢裕子/SANKEI EXPRESS

 ■からき・ひであき 1941年、東京都生まれ。73歳。東大名誉教授。獣医師。公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長。著書に『不安の構造』など。

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