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30代でいただく役、大切に演じたい 映画「きみはいい子」 俳優 高良健吾さんインタビュー

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30代でいただく役、大切に演じたい 映画「きみはいい子」 俳優 高良健吾さんインタビュー

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「僕は何と言っても俳優デビューが『ごくせん』ですから。教師役といえば、『ごくせん』に登場する先生たちはばっちり印象に残っていますよ」と語る、俳優の高良(こうら)健吾さん=2015年6月7日、東京都港区(宮川浩和撮影)  「演じている僕を見て、お客さんが『(その場面に)自然に溶け込んでいるな』と感じてくれたらうれしいですね」。かつて行ったインタビューの途中、高良(こうら)健吾(27)は、遠くを見つめるような表情で何度も役者として目指すビジョンを口にしていた。あれから2年、主演映画「きみはいい子」(呉美保(お・みぽ)監督、東京・テアトル新宿ほかで公開中)で初めて挑んだ小学校の教師役では、そんなひたむきな高良の切磋琢磨(せっさたくま)が結実し、本人も確かな手応えを感じることができたようだ。

 映画「きみはいい子」で教師

 「僕がまだ20代の前半だったら小学校の教師役は絶対にいただけなかったでしょう。30代になれば、また演じる役もガラッと変わると思うんです。20代でできなかった役について、きっとたくさんお話がくるようになるはず。『きみはいい子』への出演はその入り口になったと感じています。今後、特に30代でいただいた役については、今以上に大切に演じていきたいです」。高良は静かな語り口で役者としての心構えを語った。

 《新米教師、岡野匡(高良)は、仕事への姿勢は一見、まじめそうには振る舞っているが、自分が受け持つクラスの児童たちが引き起こす数々の問題や、電話で激しく抗議してくる親への対応にはどこか及び腰。キャリアウーマンとしてバリバリと働く恋人(黒川芽以)との関係は日に日にギクシャクとしてきた。ある日、岡野は、児童の一人が継父から激しい虐待を受けていることに気づく》

 本作は作家、中脇初枝(41)が児童虐待をテーマにした同名の短編小説集を原作とし、3つの短編を1本に融合したものだ。呉監督は、子供と大人が抱えている身近な社会問題を題材に、人を愛することの大切さを優しいタッチで切り取った。岡野のほかにも、幼少時に親から受けた暴力がトラウマとなり、自分の娘に対しても同じように暴力を振るってしまう母親、水木雅美(尾野真千子)、知的障害を持つ息子の子育てに疲れ果てたスーパー店員、櫻井和美(富田靖子)の2人も重要な役どころで登場する。

 場面に溶け込んだ

 初めての教師役に胸を躍らせた半面、役作りでは岡野のイメージがなかなかつかめずに苦労した。「正直に言うと、僕は小学生時代の担任のことはあまり覚えていないんですよ。僕自身もとにかく静かな小学生でしたからね。最初に脚本を読んだとき、自分は教師役をしっかりできるんだろうかという不安しかありませんでした。脚本通りにうまく生徒とコミュニケーションをとれるのかと…」

 だが、ふたを開けてみれば、岡野が教室で繰り広げる大勢の児童たちとの激しい“バトル”はごく自然にわき起こり、高良の目指すところの「場面に溶け込む」が見事に体現され、高良は新境地を開いてみせた。どのようにしてその空気をつくっていったのか。

 「撮影の合間に、児童役の子供たちとのコミュニケーションを意識的に増やしたんですよ。例えば、子供が僕に『私が書いた絵を見て!』と言ってきたので、一緒に見ました。また、『一緒に(絵の)キャラクターを考えよう!』と誘われたりもしたので、僕は一緒に考えましたよ。そのほかは『芸能人は誰が友達なの?』なんて質問されたこともありましたね。ごく普通のお話ばかりです」。あとは、明けても暮れても岡野とはどんな人物なのかと考えていくという正攻法で挑んだぐらい。「実は僕は岡野の気持ちがすごく分かるんです。岡野の葛藤は誰もが通ってきた道だとも思いますしね。そこを思い出しながら、演技をしている感じでした」

 岡野は仕事や恋愛の前に立ちはだかる大きな壁に直面し、自分なりに答えを出そうと模索した。高良自身は人生で遭遇する大きな壁にどんな付き合い方をするのだろうか。「壁なんてたくさんありますよ。それこそ撮影現場の一つ一つに必ずあります。僕は、駆け出しだった昔は『壁』としか思っていなかったけど、今では壁というよりも『たぶん目標にはたどり着けるけれど長いなあ』という捉え方になりました。だから(壁に対しては)立ち止まらないよう一生懸命に動いている、という感じです。あきらめないこと。一番それが大事だと思いますよ」

 あきらめる勇気も必要

 ただ、高良は断念する勇気も時には必要だと付言した。「ちゃんとあきらめることも大切で、あきらめたら違う景色が見えたということもあります。絶対にあきらめないぐらいの気持ちで何かに打ち込んだら、逆にあきらめることができます。僕は『ここまでやったんだ』と思えるぐらい全力で取り組みたいですね。普通、生きていれば壁にぶつかるものですよ。それが当たり前です。では、そこで、どう壁を突破するのか。よく『人生は勉強だ』とお年寄りの方ほどおっしゃるように思いますが、僕も本当にそうだと考えています」

 ある時期、「瞬間的に」教師になってみたいと考えたこともあるという高良が理想とする教師像は? 水を向けると、一人前の人間としてきちんと扱ってほしい-と渇望していた高校時代の激しい思いがふと顔をのぞかせた。「『いつでも先生でいてほしい』ということですね。僕が高校2年と3年のときの担任は、僕に対してきちんと一人の人間として接してくれました。クラス全員に対してもそうでした。よく『生徒と目線を合わせるのが大事』という言い方を耳にしますが、その先生は僕たちに心も合わせてくれていたんです。それが理想ですね。もちろん生徒たちに対して厳しさも必要です。まだ高校生ぐらいの年齢では、叱ってやることが絶対に必要ですからね」(文:高橋天地(たかくに)/撮影:宮川浩和/SANKEI EXPRESS

 ■こうら・けんご 1987年11月12日、熊本市生まれ。2005年「ごくせん」で俳優デビューし、翌06年「ハリヨの夏」で映画デビュー。主な主演映画は、13年「横道世之介」「千年の愉楽」、15年「悼む人」。テレビドラマでは、放映中のNHK大河「花燃ゆ」(高杉晋作役)など。11年には舞台「時計じかけのオレンジ」に出演した。

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