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有識者会議、整備費2520億円了承 「新国立」見切り発車 あてない財源

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有識者会議、整備費2520億円了承 「新国立」見切り発車 あてない財源

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新国立競技場の有識者会議の後、記者会見する日本スポーツ振興センターの河野一郎理事長(中央)ら=2015年7月7日午後、東京都内のホテル(三尾郁恵撮影)  巨額の整備費に批判が集まっている2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアム、新国立競技場(東京都新宿区)について、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は7日、将来に向けた構想を話し合う有識者会議を開き、整備費が2520億円に膨らんだ実施設計が了承された。JSCは10月の着工を目指し、近く施工業者と契約する。

 基本設計時の整備費は1625億円で、大会後に設置を先送りした開閉式屋根などの分260億円を除くと、今回との差額は1155億円。そのうち、2本の巨大なアーチなどデザインに伴う難工事に起因する増加分が約765億円に上った。

 その他、消費税増税で約40億円、建築資材や人件費の高騰で約350億円となった。

 JSCの河野一郎理事長は「予測できなかったこと」と弁明したが、あらためて見通しの甘さが浮き彫りとなった。

 完成後、50年間で必要な大規模改修費も、昨年8月の試算の約656億円から約1046億円となり、約390億円増大。年間約3億3000万円の黒字を見込んでいた大会後の年間収支も、約3800万円の黒字と大幅に下方修正した。

 有識者会議は主要関係機関のトップらで構成され、整備費の一部負担を求められている東京都の舛添(ますぞえ)要一知事(66)や大会組織委員会の森喜朗(よしろう)会長(77)らが出席。デザインの採用を決めた審査委員会で委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏(73)は欠席した。

 ≪「新国立」見切り発車 あてない財源≫

 新国立競技場の実施設計が7日、JSCの有識者会議で了承され、巨大プロジェクトは財源確保の見通しが立たないまま10月の着工へ走りだす。基本設計段階で1625億円と見込んだ整備費が2520億円に膨らんだ説明も十分とは言えず、批判の中での見切り発車となる。

 苦しい答弁

 「(2本の巨大なアーチなどの)屋根の鉄骨は非常に特殊な技術が必要。できる業者は数社しかない。競争原理が働かず、価格が高止まりする」。会議後の記者会見で費用増大の原因を追及されたJSCの山崎雅男本部長は、苦しい表情で答弁した。

 費用面で最大のネックとなったのは、建築家から難工事が確実で取りやめるべきだと再三批判されてきたアーチ構造。

 JSCの見通しの甘さは否定できず、日本オリンピック委員会の竹田恒和(つねかず)会長は会議で「(コスト削減を進める)国際オリンピック委員会の五輪改革を考えると、現在のコストは決して満足できるものではない」と苦言を呈した。

 希薄な当事者意識

 国立競技場の改築構想は、開催が決まっていた19年ラグビー・ワールドカップ(W杯)に向け、11年2月に超党派の議員連盟が決議したことで動きだした。JSCは12年3月に改築に向けた有識者会議を発足。12年9月に新競技場のデザインを公募し、2カ月後にはザハ・ハディド氏の斬新な案を採用と、とんとん拍子で作業を進めた。

 所管の文部科学省も12年度から予算措置を始めたが、当事者意識は希薄だったという。当時は東京五輪の開催決定(13年9月)前。五輪でも使うという大義がなければ財源確保は難しいとの見方もあり、文科省関係者は「日本ラグビー協会会長だった森(喜朗)さんとJSCが勝手に進めていた印象」と振り返る。

 傘下の独立行政法人、JSCが進める事業に対する費用、工期面での検証は不十分で、別の文科省関係者は「結局、あのころの無責任体質を今まで引きずった」とみる。当初計画では工事が間に合わないことを下村博文(しもむら・はくぶん)文科相(61)が知ったのはことし4月。「明確な責任者がどこなのか、よく分からないまま来てしまった」と認めたが、後の祭りだった。

 「楽観的すぎ」

 肝心の財源もめどが立っていない。国から500億円の負担を要請された東京都の舛添要一知事は態度を軟化させており、遠藤利明五輪相(65)も「都とは十分信頼関係を持ってできる」と楽観的だが、予算が絡む問題なだけに決着は9月の都議会以降となる見通しだ。

 文科省は1000億円以上を販売が好調なサッカーくじの収益でまかなう考えだが、売り上げが落ち込むリスクもある。下村文科相があてにする命名権販売や寄付などによる民間資金もどこまで確保できるか不透明だ。

 国土交通省幹部は「文科省は国家的なプロジェクトだから何とかなると楽観的すぎたのではないか」と冷ややかな見方を示す。有識者会議の委員である民主党の笠(りゅう)浩史衆院議員(50)は「もっと費用が膨らむのではないかとか、見切り発車という批判もある。不信感を招かない丁寧な説明が必要だ」と指摘した。(SANKEI EXPRESS

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