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【サッカー】なでしこW杯準優勝 クマの神通力 決勝で消えた
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初戦で骨折した安藤梢の代わりに、なでしこ快進撃を支えた白いクマは岩渕真奈(まな)に抱かれて決勝の会場を去った。決勝でチームに合流した本物の安藤は表彰式で銀メダルをかけられ、山根恵里奈に背負われて退場した=2015年7月5日、カナダ・ブリティッシュコロンビア州バンクーバー(岡田亮二撮影) カナダで開催されたサッカーの女子ワールドカップ(W杯)で、日本代表「なでしこジャパン」は準優勝に終わった。前回W杯に続く連覇はならなかった。
下馬評は高くなかった。チームの調子も上々とは言い難かった。それでも大会期間中に目を見張るほどチームは変身し、決勝までステージを進めたのは見事といえた。
だが、圧倒的な実力差があるならともかく、同等か劣勢をひっくり返して世界一となるためには、そのための理由がいる。プラスアルファが必要となる。前回のW杯優勝に導いたのは、東日本大震災の被災地、被災者に対する思いだった。
悲惨な故郷の現実をビデオで確認しながら、涙で心を一つにしての世界一だった。誰のために、何のために戦うか。これが明確なチームは強い。
今回の快進撃を支えたのは、背番号7番のユニホームを着た白いクマの縫いぐるみだった。初戦のスイス戦で決勝点となるPKを獲得した、そのプレーでFWの安藤梢(32)は左足首を骨折し、チームを離脱、帰国した。
以来、現地で購入した縫いぐるみに安藤のユニホームを着せてベンチ入り。いつも両腕に抱いての入場役はチーム最年少、岩渕真奈(まな、22)の役目だった。「アンチ(安藤)とともに戦っている」がチームの合言葉になり、安藤自身が皆に告げた「私をバンクーバー(決勝戦の舞台)に連れてって」がチームの目標となった。
離脱の際、岩渕は「後を頼むね」と安藤に託されたのだという。安藤の離脱で先発に返り咲いた川澄奈穂美(なほみ、29)は切れ味を取り戻し、準決勝の決勝オウンゴールを生み、安藤との約束を果たした。
決勝開始直前、ベンチにはユニホーム姿の安藤の姿があった。白いクマの縫いぐるみも共存した。チーム全員の笑顔もあった。彼女らを支えた神通力は皮肉なことに、ここで途切れてしまったのかもしれない。ホイッスルとともに、米国の猛攻が待っていた。
笑顔は消えた。
≪ベテランの涙 新世代の決意≫
岩清水梓(いわしみず・あずさ、28)の涙が止まらない。
開始早々、彼女がマークするFWロイドにハットトリックを決められた。3分、5分、16分。これで試合の行方はほぼ決まってしまった。1点目はロイドのスピードに彼女を見失い、3点目は自らのクリアミスをそのまま決められた。
前半33分に澤穂希(ほまれ、36)と交代すると、ベンチで泣き崩れた。仲間に励まされてようやく前を向くが、涙はそのままだ。体格に恵まれず、スピードがあるわけでもない岩清水のすごさは、競技場の高いところから見るとよく分かる。
敵のパスは岩清水に向けて出されているのではないかと錯覚させるポジショニングの絶妙。攻撃の起点は岩清水の縦パスにあり、窮地に体を投げ出す勇気もある。
攻のコンダクターが宮間あや(30)なら、守のそれは間違いなく岩清水だった。岩手県出身、「東北魂」を胸に、なでしこの粘り強くあきらめない守備陣を支えてきた。その自負も自信も矜恃(きょうじ)も、ロイドに蹴散らされた。
試合中も試合後も、涙が止まらない岩清水を慰め続けたのは近賀(きんが)ゆかり(31)だった。5失点の責任にうなだれるGK海堀(かいほり)あゆみ(28)の頭をなで、励ましたのも近賀だった。
前回W杯では不動の右サイドバック。ほとんど同じ陣容で戦った今回のW杯では、澤と近賀の2人だけが先発を外れた。澤は交代の切り札となったが、近賀は有吉佐織(27)に定位置を奪われ、決勝トーナメントでは出番さえ失った。
ベンチでの近賀の存在感は絶大だった。ただ、いつまでもドイツW杯世代に頼るわけにはいかない。前回18歳でチーム最年少だった岩渕は、今回も22歳で最年少のままだった。
日本では澤、米国ではワンバックが「今回が最後のW杯」と公言した。世代交代に向けて「今がピークといわれないように」と口にした岩渕の決意を、ベンチや日本でゲームを見守った、すべての若い選手が共有しなくてはならない。(EX編集部/撮影:岡田亮二、AP、共同/SANKEI EXPRESS)