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政治
【安倍政権考】連合分断へ「同志」右派に接近
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政労使会議で安倍晋三(しんぞう)首相(右端)の挨拶を聞く連合の古賀伸明会長(左から3人目)=2015年4月2日、首相官邸(酒巻俊介撮影) 安倍晋三首相が日本最大の労組中央組織、日本労働組合総連合会(連合)の分断作戦を本格化させている。連合は民主党最大の支持団体であることから、安倍首相は連合内の右派に接近して左派との分裂を誘い、民主党の弱体化を図ろうとしているのだ。連合内の右派には集団的自衛権の行使容認、原発肯定、憲法9条改正への賛成派が多く、政治理念は意外にも安倍首相と近い。このため、公務員労組などの連合内左派が警戒を強めている。
安倍首相は6月26日夜、連合傘下でスーパーや繊維系の労組などで構成する産業別労組「UAゼンセン」の逢見(おうみ)直人会長と首相公邸でひそかに会談した。政府は原則的に歴代首相との会談相手をマスコミに公表している。ところが、26日夜に限っては、安倍首相の公邸入り以降の動静が保秘扱いとなり、公にされなかった。
逢見氏は、民主党を支援する民間最大の産業別労組のトップ。連合ナンバー2の事務局長に10月に就任することが、会談の数日前に内定したばかりだった。
会談では、今国会で議論されている労働法制改革をめぐり意見交換し、安倍首相が協力を求めたとみられる。
企業が派遣労働者を受け入れる期間の制限を事実上撤廃する労働者派遣法改正案について、安倍政権が成立を目指しているのに対し、連合は民主党と足並みをそろえ強く反対している。安倍首相側に民主党を揺さぶる狙いがあったのは明白だった。
そもそも、連合内ではUAゼンセンなど民間労組中心の右派(旧同盟系)と公務員労組中心の左派(旧総評系)が牽制(けんせい)し合っている。このため、左派の労組幹部は「連合が政府に政策を要求することは大切だが、逢見氏のようにコソコソやることではない」と不快感を示した。
こうした連合内の内情を熟知する安倍首相の労組分断作戦は実に巧妙だ。安倍首相は自身の経済政策「アベノミクス」を実現させるため、「政労使会議」を発案。2013年9月、連合の古賀伸明会長を引きずり出した。それまでの自民党政権は対峙(たいじ)型の「政労会見」として、政府と連合だけの枠組みで協議してきたが、政労使会議には経団連も参加することになった。政府が労使の間を取り持つ形で話し合いを続け、連合内にあった安倍政権アレルギーを徐々に払拭させることに成功。やがて逢見氏との密会を果たすまでに至った。
ただ、安倍首相の正念場はここからだ。古賀会長は14年の産経新聞の取材で、こう民主党を批判している。
「民主は働く者の視点に立った政策を進めようとしたが、ガバナンス(統治)に問題があった。政権運営に失敗した理由はほぼそれだけだ。自民の場合、いざとなったら(政策論ではなく)政権維持にベクトルが向く。民主は、みんなが(消費増税を巡り)言いたいことをどんどん言って分裂した」
連合が自民を引き合いに出し、ここまで民主を批判できるのは、自らのガバナンスに自信を持っているからだ。連合は1989年、左派と右派が労働者のための政策実現を目指して結集し、憲法9条改正などイデオロギーの是非を棚上げにした。数の力で国会などに議員を送り出さなければ、利益団体として連合の望む政策が実現できないと考えたからだ。両派の政治理念は前述のように、安全保障やエネルギー政策などテーマによっては「水と油」にもかかわらず、2009年には民主政権樹立をさせるなど、四半世紀以上も分裂を回避している。
とはいえ、旧同盟系の労組幹部は数年前、「旧総評系と一緒になるべきではなかったという考えは、今でも変わらない」と私に明言している。安倍首相が、こうした連合のイデオロギー上の矛盾を突くのは政治家として正攻法なのだが、相手を怯ませるには、まだまだパンチが足りない。(政治部 比護義則/SANKEI EXPRESS)