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【佐藤優の地球を斬る】イランとのビジネスに関与するな

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【佐藤優の地球を斬る】イランとのビジネスに関与するな

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7月14日、イラン核協議が行われた首都ウィーンで写真撮影に臨むイランのモハマド・ザリフ外相(左端)や米国のジョン・ケリー国務長官(右から2人目)ら=2015年、オーストリア(ロイター)  イランは、安倍政権が近未来に自国に対する経済制裁を解除することになると見ているようだ。7月26日、国営「イランラジオ」が日本語放送でこう報じた。

 <情報筋が、日本は現在、イランに対する経済・貿易上の制裁の段階的な解除を検討しているとしました。ジャパンタイムズによりますと、情報筋は、日本はイランに対する制裁解除を検討しており、これは世界の大国とイランの核合意を、イランが実施することにかかっていると強調しました。日本にとって、イランはエネルギーの最大供給国のひとつとされており、日本は、企業のエネルギープロジェクトへの復帰の可能性を検討しています。IAEA(国際原子力機関)の査察が今年末から始まることが予想されています。情報筋はまた、「イランが合意を守っていると認められたとき、日本は制裁の解除に関して、ほかの国と連携した決定を行う。日本はまた、IAEAの査察の実施を支援するつもりだ」と述べました。日本は2007年、国連安保理の決議の枠内で、対イラン制裁を実施し、2010年にも、イランのエネルギー部門の投資に対する制裁を拡大しました。制裁が解除された場合、日本はイラン南部のアーザーデガーン油田の共同開発プロジェクトへの参入に努めることになります。日本の政府筋も、イランは中国企業との契約が解消した後、エネルギー部門において、日本企業の投資や技術を活用したいと考えている、ということを認めています。イランと世界の大国は、7月14日、オーストリア・ウィーンの核協議が正式に結果にいたったと表明しました。>

 核開発計画を放棄せず

 IAEAの査察が始まるので、日本はイランからの石油輸入を再開するという見通しをイラン政府は持っているようだ。しかし、イランとの経済関係は、依然として大きなリスクを孕(はら)んでいる。それは、イランが核開発計画を放棄していないからだ。ウイーンでの合意でも、イランが6000基の遠心分離器を持つことを認めている。また、地下に設置された核兵器開発工場も、「研究所」として維持することが認められている。この合意は、イランが1年で広島型原発を開発することを米国などが認めたということを意味する。もちろん、イランは最初の1~2年はIAEAの査察を受け入れるだろう。しかし、そのうちにIAEAの査察担当者に疲れが出てくる。その隙を衝いて、イランはウラニウムの高濃度濃縮を再開する。厄介なのは、軍人や保守派だけでなく、改革派や宗教的にリベラルな人々も、イランは核兵器を保有し、大国になるべきと考えている。残念ながら、イラン人の圧倒的多数がペルシア帝国主義的な発想をするようになっている。このような状況で、数年後にはイランの核開発が露見する可能性が十分ある。そのときは、再度、イランに対する制裁が加えられる。イランとのビジネスは、このようなリスクを抱えることになる。

 強まるイスラム内対立

 核開発以外にも問題がある。制裁が解除され、イランが本格的に石油、天然ガスを輸出し、潤沢な外貨を得るようになると、イランはシリアのアサド政権、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシー派、アフガニスタンのハリリ派などへの軍事援助を強化する。イランは、シーア派によるイスラム世界革命という構想を放棄していない。その結果、「イスラム国」(IS)、アルカイダなどとの軋轢(あつれき)が強まる。

 シーア派とスンニ派の内ゲバが、世界的規模で一層激しくなる。このことが、両派のテロを激化させる。米国のオバマ大統領の近視眼的なイラン懐柔策が国際秩序を大きく混乱させつつある。日本の企業や個人が過度なリスクを負い被害を被る危険性を避けるためには、イランとのビジネスに関与しないことが最善策と思う。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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