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消費税再増税を見送る決断 これだけではアベノミクスの効能は取り戻せない
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円安に伴う企業収益アップや株高などは、アベノミクス効果に対する過信としか言いようがない。円安は物価だけを上げさせ、賃上げには結びつかない。消費税増税後、消費や生産の落ち込みに加えて、株価まで変調をきたしつつあった。安倍首相が消費税再増税を見送る決断をするだけでアベノミクスの効能を取り戻せるか、疑問である。
8月中旬以降の日本株は変調をきたした様相だった。円安=株高という図式が一時的に壊れたのだ。消費税増税後、消費や生産の落ち込みに加え株価までおかしくなっていたわけで、4月の増税はまさにアベノミクスを瀕死の状態に追い込んだ。日銀は急きょ異次元金融緩和を拡大したが、安倍首相は消費税再増税を見送らざるをえない情勢だ。
グラフは主要国・地域の株価をドル建てと現地通貨建ての2つの指数で表示する「MSCI」株価指数の日本編と円の対ドル相場の推移である。円建て株価指数は円安基調と並行してジリジリと上昇し、7月初めに比べたピーク(9月25日時点)の株価は5・5%上昇したが、ドル建てで見ると逆に1・5%下回った。
円安の度合いに比べて円建て株価の上昇幅が小さいからだが、円建て指数とドル建て指数は日銀による異次元金融緩和が2013年4月4日に打ち出されて以来、ほぼ重なるようにして変動してきた。それが、消費税増税後の景気動向を示す4~6月期のGDP(国内総生産)第1次速報値が発表された8月13日からカイ離し始めた。そして9月末からは円建て、ドル建てとも下落基調に転じ、その後を追うように円安傾向が止まった。円高に反転すると、今度は株安要因になる。
アベノミクスは異次元金融緩和で円安誘導し、株高につなげる。物価は日銀によるインフレ目標の狙い通りに上昇し、実質金利がマイナスになる。すると消費者や企業はカネを貯めずに消費したり、設備や株式などに投資する。
だが、金融だけで「15年デフレ」から脱出できるほど甘くはない。
2001年3月から2006年3月までの日銀による量的緩和期では円安で輸出を増やし、株価も上がったが、デフレ基調は続き、物価の下落以上に賃金が下がり、つまり実質賃金は下落し続けた。民間設備投資の回復もほんの一時期に終わった。
ところが、黒田日銀総裁は「異次元金融緩和があるので、増税しても景気は回復基調を続ける」と安倍首相を説き、増税に踏み切らせた。
下のグラフは円の対ドル相場と、物価の変動分を加味した実質賃金の指数を、リーマン・ショックが起きた2008年9月を100として追っている。アベノミクスが始まるまでの特徴は、円高局面では実質賃金が大きく落ち込んできたこと。そして全体としては1997年4月の橋本龍太郎政権による消費税率引き上げ(3%から5%へ)以降、実質賃金は下降トレンドにあり、今年4月の税率8%へのアップ以降、下落速度に加速がかかったことである。
もう1つ、アベノミクス「第1の矢」である日銀の異次元金融緩和で円安に反転したのだが、円安にもかかわらず実質賃金が下落しており、円安=賃金アップという期待が消えてしまった。円安効果で輸入コストが上がり消費者物価上昇率が1%以上上がったのは日銀の思惑通りだったのだが、名目賃金は上がらないので、実質賃金はむしろ押し下げられた。4月には春闘で1%程度のベアは実現したのだが、消費税増税分の価格転嫁で消費者物価は2%程度、円安効果と合わせて3%台半ばまで上がった。実質賃金の急降下はこうして始まったのだ。
政府も、民間エコノミストや大手経済紙などメディア多数派も1997年度増税後の教訓を一顧だにしない。その根拠は、円安に伴う企業収益アップや株高などアベノミクス効果に対する過信としか言いようがないのだが、円安は物価だけを上げさせ、賃上げには結びつかない。株高が家計消費を押し上げる効果は乏しいうえに、外国人投資家は株価が上がれば機を見て売り逃げるので、上昇基調は突如打ち切られ、またたく間に下落局面に転じることも多い。
安倍首相が今後、来年10月からの再増税を見送る決断をするだけでは、アベノミクスの効能を取り戻せるのか、疑問である。それほど、10%への税率アップの衝撃は大きい。首相は、思い切った所得税減税に踏み切るべきだ。(ネットマネー)