【素材ウォーズ】(上)
■アルミと炭素繊維に高張力で対抗
世界で年間約9000万台が生産される自動車を舞台に、鉄鋼、アルミニウム、炭素繊維など素材間の市場争奪戦が過熱している。環境規制などを背景に軽量なアルミや炭素繊維の採用が徐々に広がり、普通乗用車1台約1トンのうち約7割を占めるとされる鉄鋼の独壇場を侵食。鉄鋼側が圧倒的な供給力と技術革新で迎え撃つ構図だ。巨大市場をめぐる綱引きは、素材産業の未来を左右しそうだ。
独壇場を侵食
「軽くて燃費が良く、安全な車を実現できる素材を提案していく。素材に加え、部品構造、工法の三位一体で機能を高められる」
東京・有明で今月開かれた「高機能金属展」の展示会場で、新日鉄住金の宮坂明博副社長はこう語り、鉄鋼業界の総合力を強調した。
安全性に加え、量産が必要な自動車業界にとって、強度が高く、加工のしやすい鉄鋼は基盤素材だ。ドアなど板材や車内を守る骨格、シャフト(回転軸)など大部分で採用し、エンジン部分に使うアルミや窓のガラス、バンパーなどの樹脂といった他素材を大きく上回る。
だが、日米欧の環境規制の強化や自動車業界の燃費競争を背景に、鉄鋼の地位を脅かすような新車種が登場し始めた。米フォード・モーターが米国内の主力ピックアップトラック「F-150」の2015年版で、車体にアルミを初めて採用し、前モデルの全体重量の約15%に当たる約320キロの軽量化に成功。独BMWは昨年日本でも発売した小型電気自動車「i3」で車体骨格に炭素繊維を使用したのだ。