〈戦後30年目の昭和50年、南太平洋・ラバウル沖から引き上げられた零戦が国立科学博物館で公開され、話題を呼んでいた〉
高度成長の中でしたが、歴史を冷静に見る視点が受け入れられるようになっていた。ノンフィクションに読者がついてきてくれる時代でした。昭和史の中で大きな意味を持った零戦の栄光と悲惨を技術の面から書くと同時に、若いパイロットがどういう形の生と死を見せてくれたのか、一人一人大事にみることを心掛けました。
仕事を始めてすぐ気づいたことは、日米の技術思想の違い。そして背景にある文化の違い、命に対する考え方の違い、そういう比較文化論みたいな意味があるんだと。
スピードや航続距離、旋回性能を追求するのは日本ならではの思想なんです。その土俵の中で、1千馬力のエンジンを積んだものとしては当時世界一の戦闘機を実現した。しかし、それが日本独特の条件の中での思想だということに気がつかない。ここが落とし穴なわけです。自分の世界の中で最善を尽くせば無敵だ、と思ってしまう。これは時代を超えた普遍的な問題だと思いますね。