というような評価をするといかにも堅苦しく、文学に通じている読者にしか分からないように思えてしまうが、それは違う。川本氏の文章は豊富な知識と鋭い批評眼に裏打ちされ、映画を観ていない者にもわかりやすく作品の本質を解き明かしてくれる。例えば、「おかあさん」の記述は、「苦労話、貧乏話をじめじめ描くことはしないし、社会問題に広げて深刻になることもない。あくまでも日常感覚で語ってゆく」と的確。男女間の恋愛関係に金の話をわざわざ持ち込むことについて、「その結果、メロドラマが抑制される。感傷や過剰な感情が冷却される。落ち着きが出てくる。金の効用がある」と鋭い考察がわかりやすい文章で綴(つづ)られていく。
本の中ほどに「貧しい暮らしにこそ親しみを寄せ続けてきた成瀬巳喜男」は、似たような視点で小説を書き続けた林芙美子と「肌が合う」と書かれてあるが、川本氏もこの2人と「肌が合う」のは疑いないところだ。(新潮選書・1200円+税)
評・瀬戸川宗太(評論家)