「原敬外交と政治の理想」【拡大】
■精緻で野心的な平民宰相伝
「いり豆をかじりつつ古今の英雄豪傑を罵倒(ばとう)するは人生最上の快事である」
歴史作家の海音寺潮五郎が伝える江戸期屈指の儒学者、荻生徂徠(おぎゅう・そらい)の言葉である。誤解を恐れずにいえば、本書の著者はこの徂徠的なけれんの対極にある。謹厳な姿勢を崩さず、膨大な資料を駆使し、平民宰相・原敬の人物像と時代を実証的に掘り下げてゆく。
原については一次史料『原敬日記』また『原敬全集』が出版されている。原の養子、奎一郎は『ふだん着の原敬』を著し、『評伝原敬』(山本四郎著)をはじめ伝記類も多い。本書はこうした「原敬本」をひもといたさいに生じる疑問を解決し、見落としていた史実や歴史的背景を理解する最良の手引きとなろう。
本書によれば、原は若き新聞記者時代から「公利」(公共性)を追求し、長じて政治家としては《敵対する者は撃破するが、そうした者でも降伏してくれば名誉を守ってなるべく味方に引き込む》という懐の深さがあった。