例えば福井の町医者・笠原良策やシーボルトの門弟・日野鼎哉ら、天然痘に立ち向かった蘭方医たちの苦闘。伊豆韮山代官にして、渡辺崋山や高島秋帆を師と仰ぎ、国際情勢を的確にとらえていた砲術家の江川太郎左衛門。西洋の概念を、その知識の体系ごと学んだうえで翻訳する、桁(けた)はずれに優秀な一群の通訳。こうした人々に学問と実践の機会を与えた蘭癖(らんぺき)大名や商人。
広瀬氏らしく、師弟の繋(つな)がり・主従の繋がり・地縁血縁・金の流れ等々、多角的な徹底調査で実に多くの“忘れられた偉人たち”を救い出している。彼らの地道な努力、弾圧に負けない強い精神力、国を思い民を思う志、果てしない好奇心。この国の人材の層の厚さに驚かされる。
文明開化のさきがけとなった日本の誇るべき偉人たちの膨大な記録を前にして、胸が熱くなる作品である。(集英社・上1900円+税、下2000円+税)
【プロフィル】麻木久仁子
あさぎ・くにこ 昭和37年、東京都出身。タレントとして幅広く活躍中。書評サイト「HONZ(ホンズ)」メンバー。