流氷の旅にはダイナミックな仕掛けが隠されている。モンゴル高原から流れるアムール川がユーラシア大陸北東部の水を広く集め、大河となってオホーツク海へ注ぐ。その大量の淡水が海面の塩分濃度を下げて海面が凍りやすくなるのだ。そこにシベリアからの強い寒気が吹きつけ“流氷の赤ちゃん”が誕生する。氷の群れはサハリン沿岸の東樺太海流に乗ってじわじわ成長しつつオホーツク海を南下し、ついに北海道へと流れつく。
北海道沿岸は流氷の南限、つまり氷の旅の終着駅である。
かつて羅臼でスケトウダラが豊漁だった頃、オオワシやオジロワシは2000羽ほどが知床半島周辺で越冬していたという。漁の網からこぼれた大量の魚が、海鷲たちの格好の餌になったのだ。漁が下火になった今、北海道各地に分散して越冬するようになった。近年はエゾシカが増え、猟師が置いていった残骸が海鷲の餌となり、内陸の森でもよく見るようになった。
流氷も年ごとに変化はあるものの、ここ数十年は勢力が弱くなる傾向が続く。温暖化やさまざまな環境変化は、果たして流氷や海鷲の旅にどんな変化をもたらすのだろうか。