布には、ほんとうに多くの神秘や物語や技能がこめられている。それが「ちから」なのである。文様や模様や生地そのものに「ちから」があるのは当然なのだが、着かた、纏(まと)いかた、巻きかた、結びかた、合わせかた、畳みかたにも、その土地、その民族、その風土の植物、その手技の「ちから」があらわれる。
ジャワ更紗は蝋纈(ろうけつ)染めの布である。インドネシア・マレーシア・インドにひろがるバティックは、18世紀以降は多種多様なヴァージョンになっているけれど、なかでもジャワ島のバティックが格段の「ちから」をもっているので、ジャワ更紗と呼ばれてきた。江戸の更紗はこのバティックが島渡りしてきたものだったので、長らく「渡りもの」と言われた。ストライプの「縞」も、最初は「島」のことだった。
しかし、石田さんの更紗はジャワで見失われた文様や技法に挑んだもので、そこが抜群にすばらしい。isisのジャワ更紗はチレボンの工房と石田加奈が組んだ、世界でただひとつのテキスタイルアートなのである。