藤沢の装飾金属を専門にしている「さいとう工房」の一角。鉄が鉄を加工する現場。鉄の工匠たちは独特の哲学と技能がある。この写真は作品の一部。藤本晴美さんに紹介された(小森康仁さん撮影、松岡正剛事務所提供)【拡大】
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10代のころ、化石や鉱物を採集をしているうちに黄鉄鉱や磁鉄鉱に出合い、「鉄学者」になりたいと思った。ピカピカの鉄、万力のような塊、鉄橋、自転車、錆びた鉄、みんなすばらしい。そう、思ったのだ。
残念ながら「鉄学者」になるという希望は叶わなかったけれど、30代、自分で創刊し編集した雑誌「遊」で遅まきながら「鉄学ノート」を書いた。ついで全ページを漆黒にした『全宇宙誌』で「宇宙のアイアンロード」を綴ってみた。
鉄は人類と文明の象徴だ。鉄を加工することを思いつけなかったなら、動力も産業も戦争も、工作機械もスカイスクレイパーも、ここまで発達しなかった。宰相ビスマルクの言葉ではないが、まさに「鉄は国家なり」なのだ。ヤマト朝廷だって、出雲や北九州のタタラの民の技能をまるごととりこんでやっと成立したわけである。