藤沢の装飾金属を専門にしている「さいとう工房」の一角。鉄が鉄を加工する現場。鉄の工匠たちは独特の哲学と技能がある。この写真は作品の一部。藤本晴美さんに紹介された(小森康仁さん撮影、松岡正剛事務所提供)【拡大】
星の一生の重要な場面にも、鉄は登場する。星は水素やヘリウムで形成を始めるのだが、そのうち元素周期律表の順番に星の内部に多様な物質を詰めこんでいく。しかし、鉄族がちょうど出現したところで、3つの道(ロード)を選択する。そのまま鉄族をたっぷり蓄えた星になるか、爆発して超新星となってヘリウム回帰するか、自分の荷重に耐えかねてブラックホールになるか。つまり鉄は、星の運命を決定している宿命的な物質なのである。
鉄はカーボンの含有量によって、錬鉄・鋼鉄・銑鉄などに分かれるが、結局はどのように鋳るか、何を混ぜるかで、その性質が決まる。そこでは製鉄や鋳鉄の技術の腕がものを言う。
ぼくは鉄そのものにも尽きぬ魅惑を感じてきたのだが、鉄にとりくんできた工匠たちにも憧れてきた。ギュスターブ・エッフェルも篠原勝之も、蒸気機関車もシコルスキーのヘリコプターも、エジソンの鉄電話器も軍艦三笠も、このところお世話になっている装飾鉄工房の斎藤昭二郎夫妻も、カッコいい。ブックウェアに倣(なら)っていえば、そこにはアイアンウェアがあるのだ。