やがて船の性能があがり船足が速くなると、羅臼の港から通いで漁をする人が増えた。今、赤岩の番屋に滞在してコンブ漁をするのは、わずか3軒だけだ。人が去った番屋は潮風や雨雪で風化し、ひっそりと夏草に覆われていた。
≪番屋からの眺め 漂う原風景の精気≫
そんな赤岩の古い小屋のひとつに、長谷川家の番屋がある。現在、羅臼で観光船を営む長谷川正人船長(53)が子供の頃に過ごした番屋だ。今では信じられないが、わずか2キロほどの赤岩の浜に50軒ほど番屋があったという。
「鍋、釜、犬、猫みんなひっくるめて舟に積んで赤岩へ行ったんだ。子供の頃はまだ相泊にも港がなくて、羅臼から5時間から7時間くらいかかったもんだ」
赤岩を引き上げてから数十年。傾き始めた番屋の補修を兼ねて、7月末に1週間ほど赤岩に滞在してきた。
人にもクマにも
赤岩に入ってまず驚くのは浜辺の海草だ。ちょうど干潮になった水際にはスガモやコンブが猛烈に密生し、足に絡みついてうまく歩けない。素潜りしてみると揺れ動く長いコンブにとり囲まれ、前も見えず怖いほどだ。潮だまりには小魚やカニ、貝がわらわらとうごめいている。