社会の闇に翻弄される若者の葛藤を独特の映像美で表現してきたインドのヒットメーカー、ラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラ監督(51)が、母国の伝説的な元陸上選手、ミルカ・シン(84)を新作の主人公に据えた。タイトルは「ミルカ」。このシク教徒の国民的英雄の名前そのままだ。1947年の英国からのインド・パキスタン分離独立に伴う混乱で、親きょうだいを次々と虐殺されたミルカの苛烈(かれつ)を極める幼少時の体験をベースに、メーラ監督は深い悲しみとの向き合い方をじっくりと考えさせる内容に仕上げた。「映画を見たミルカはとても喜んでくれました。私はとても救われた気持ちです」。メーラ監督はホッとした表情をみせた。
1960年、ローマ五輪・陸上400メートル決勝。金メダル獲得が確実視されていたインド代表、ミルカ(ファルハーン・アクタル)だが、ゴール手前で後ろを振り返るという不可解な行動に出て、記録は4位に終わった。メダル獲得に大きな期待を寄せていたインド国民はミルカの“裏切り行為”を激しく非難し、帰国後のミルカは表舞台に出ることを避けるようになった。ほどなく、パキスタンで開催されるスポーツ大会のインド選手団長に指名されたが、ミルカはかたくなに拒み続け…。