さらに鴨居は死に魅了されているように「だんだんほろびていく自分を描き続けたい」とまで言い切った。
今回が初公開の「自画像(絶筆)」は、鴨居が自ら命を絶った直後、イーゼルに架かっていた作品だという。それまでの自画像に比べ、目や頬はくぼみ、死の色合いが増している。しかし、表情にはどことなく、安らぎや笑みさえも漂っているように見える。
鴨居は多感な17歳で終戦を迎えた。その1年前に兄を戦死で失い、4年後には、父を亡くした。そうした死が、人生や作品にも影を落としたに違いない。
しかし、鴨居だけでなく、あの時代の多くの人々にとって死は身近な存在だった。そして絶望や孤独や悲しみも…。
高度成長に背を向け
鴨居が外国を放浪していた十数年は、日本が「右肩上がり」に高度成長を続けていた時期と重なる。鴨居は、敗戦後、手のひらを返すように物質的な豊かさを求めて走り出した日本に背を向けたのではなかったか。そしてスペインで、“負け組”だが、ありのままに生きている人々に出会い、人間の本質や真実を見いだしたのではないか。