時間にすればわずか数秒。だが接近すると畏怖するような圧迫感を覚えることが多かったシャチに、初めて不思議な親近感を覚えた。人がシャチに興味を持つように、シャチも船や船上のヒトさえ意識して生きている。そう実感した瞬間だった。
願いを込めて引き上げたカメラに、わずか数カット、シャチの姿があった。その体にはたくさんの傷が刻まれていた。波を透過して揺らめく太陽光がその傷痕を勲章のように浮かび上がらせ、シャチが海で過ごしてきた日々を静かに語っていた。(写真・文:写真家 伊藤健次/SANKEI EXPRESS)
■いとう・けんじ 写真家。1968年生まれ。北海道在住。北の自然と土地の記憶をテーマに撮影を続ける。著書に「山わたる風」(柏艪舎)など。「アルペンガイド(1)北海道の山 大雪山・十勝連峰」(山と渓谷社)が好評発売中。
≪取材協力≫