サブトラックでは笑顔がなく、おなじみの道化ぶりにも切れがない。コーチからは「君はスタートについて考えすぎている」と注意され、うなずいていたのだという。
対するジャスティン・ガトリン(米国)は、今季も北京でも絶好調だった。5月に自己ベストの9秒74を出し、23日の準決勝も9秒77の全体トップで走り、ボルトを慌てさせた。
7年前の北京五輪はドーピング違反で出場できず、米国の自宅でテレビで観戦した。そこに現れたのが、ボルトだった。彼に勝ってこそ、本当の復活が果たせる。栄光のゴールは、目の前にあるはずだった。
結果は、残酷である。
一斉のスタートからガトリンが前半をリードし、ボルトが追い上げてかわしたが、ラストに全盛時の伸びがない。ガトリン再逆転か。だが、肝心の「最後の5メートルでつまずいた」。一瞬見えた歓喜に力が入ったのかもしれない。
ボルト9秒79。ガトリン9秒80。明暗を分けた残酷なその差は、胸板一枚ほどもない。