今年の夏は、私にとって夢のような特別な夏になりました。落語家である私が大好きな演劇で初めての主役、いわゆる座長公演をさせていただきました。
「南の島に雪が降る」。名優・加東大介さんの戦争体験が物語になっています。
飢えとマラリアで多くの兵隊が犠牲になったニューギニアのマノクワリという戦地に送り込まれた加東さんは、士気が下がる兵隊たちのために、司令官命令で演劇をやっていたという実話で、映画やテレビドラマ、そして舞台でも度々上演されてきた名作です。
生きていくために必要なもの
戦後70年の節目に企画されたこの舞台。もちろん、戦争を繰り返さないために、戦争を知らない僕らのような人間に向けたメッセージが込められた作品ですが、それだけではなく、この作品の魅力はジャングルの中の戦地に「マノクワリ歌舞伎座」という立派な芝居小屋を建てて、本格的な芝居に臨むというナンセンスにもみえる状況が実際にあったということ。「瞼(まぶた)の母」など名作を次々兵隊たちが稽古を重ね披露していたこと。カラッカラに乾いたたくさんの兵隊たちの心にどれほど多くの潤いをもたらしたことか。