しかし午後11時を回った頃から、大小の荷物を抱えた旅行者らしき人たちが1人、2人と姿を現した。そして午前0時になると、駅の待合スペースが身動きできなくなるほどの人であふれ始めたのである。
「いまから旅行ですか? みんなどこへ向かうんだろう」
横でスマホをいじっていた20代くらいの女性に声をかけてみる。彼女は顔をあげ、ニコッと笑って首を振った。
「旅行じゃないですよ。金曜日の夜なので、おうちへ帰るんです」
マレーシアの人口は約3000万人。その多くが仕事を求めて、首都クアラルンプールに集まっているという。日本でお盆休みと正月休みに見られるような帰省ラッシュが、ここでは毎週末に見られるそうなのだ。
出発の20分前になってようやく改札が始まると、いっせいに階段を駆け降りて地下のホームになだれ込んでいく。私たちも乗り遅れないよう、荷物を持って立ち上がった。(作家、航空ジャーナリスト 秋本俊二/撮影:フォトグラファー 倉谷清文/SANKEI EXPRESS)