古代、1冊の書物を2冊以上にするには書き写すしかなかった。15世紀半ばに一つ一つの活字を組み合わせて印刷する「活版印刷術」が登場し、書物を容易に増やすことができるようになる。書物を介して知識が広まる速度が上がり、中世ヨーロッパのルネサンスに大きな影響を及ぼした。活版印刷術はルネサンスの三大発明の一つだ。
新聞制作に携わる身として一度は訪れたいと思っていた印刷博物館(東京都文京区)。詳細な展示からひしひしと感じられたのは、古来の人間の「表現したい、伝えたい」という熱い思いだった。
教会の権威を揺るがしたルターのドイツ語訳「新約聖書」、生物の進化を説いたダーウィンの「種の起源」。印刷され、流布した内容は信仰の対象だったり、新しく発見した科学の法則だったり、辞典だったり。活版印刷術を発明したとされるグーテンベルクが最初に印刷したのも聖書だった。どうしても伝えたい、表現したい内容が印刷物となって、海すら越えた。
コミュニケーションなら口伝でもいい。しかし、時代や距離を越えて多くの人に伝えるには口伝から書物への改革が必須だった。