「一般車両も撮影しておきましょうか」
カメラマンに言われ、連結部を通って隣の車両をのぞいてみる。目に飛び込んできたのは、すり切れたシートと、水アカで曇った窓ガラスだ。「マレー半島を縦断するロマンいっぱいの鉄道」というのが旅行ガイドブックのうたい文句だが、ロマンチックなどという言葉とはほど遠い。何十年も使い込まれた車両に、長年の歴史がにじみ出ている。
「これじゃあ車窓からの風景撮影は無理かな」
清掃を途中で放棄したのかと思わせるくらい、ガラスが汚れている。シートの背もたれにある物入れのポケットは金具が外れてぐらついていた。そんな車両に揺られながら、カメラマンの表情に不思議と絶望感はない。「マレー鉄道、なかなかいいねえ」とでも言いたげに、お互いに顔を見合わせる。もともと乗り物好きの2人だから、歴史を感じさせるすべてを受け入れることができるのだろう。