アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリは20世紀の申し子だった。1900年にリヨンに生まれ、スイスの聖ヨハネ学院で学び、兵役に志願して陸軍飛行連隊に所属した。いったん民間航空界のパイロットになったが、第二次世界大戦に招集され、トゥールーズで飛行教官を務め、さらに自身で志願して北アフリカ戦線に赴いた。しかし1944年7月31日、地中海近辺をロッキードF-5Bで単独写真偵察飛行のために飛び立って、そのまま帰らぬ人となった。44歳だった。実はこの年にぼくが生まれた。『星の王子さま』はその前年の執筆である。
サン=テグジュペリは自分がそのうち墜落するか撃墜されるか、行方不明になるかということを、ずっと以前から知っていたにちがいない。当時の飛行機はそれほど壊れやすかったのだし、そうでなくとも飛行家とはそもそも「大地を離れた宿命」をもった農民なのだ。そうだとしたら『星の王子さま』は、コンクリートと多数決で固めてきた人類の文明に対する問いとメッセージを、不思議な異界の少年に託した遺言だったのである。