≪らせん状のディアデマ≫(日本初公開)。紀元前4世紀末-紀元前3世紀初頭。金。ブルガリア、スヴェシュタリ出土ソフィア国立考古学研究所・博物館。(National_Institute_of_Archaeology_with_Museum-Sofia,Bulgaria提供)【拡大】
ギュスターヴ・モロー(1826~98年)は「イアソン」で、残酷さを持つ「運命の女」メディアに見つめられる英雄を描いた。飯塚研究員によれば、湖だった黒海がエーゲ海とつながったのは紀元前8000~7000年ごろ。まだ整備されず、両岸に岩の突き出るボスポラス海峡の難所を通る黒海への航海は、文字通り命懸けの冒険だったろう。
ヴァルナ出土の黄金製品などが、こうした黒海地域の金の産地にまつわる数々の伝説を実証していることになる。
一方で、伝説には“黄金の魔力”に警鐘を鳴らすものもある。トルコ中央部に栄えたフリュギアの王とされるミダス王の伝説だ。農民たちに捕らえられた酒の神バッカスの養父を助けたことで、バッカスから「何でも望みをかなえてやる」と言われたミダス王は、「私が触れるすべてのものをきらめく黄金に変えてほしい」と答える。
ところが、食べ物も水も金に変わって困り果て、バッカスから「罪を洗い清めるように」言われた泉に浸って、もとに戻った。間抜けな王の話だが、富に執着しすぎて、ささやかなことに宿る幸福を忘れてしまう現代人にも通じる。