【本の話をしよう】
私は読み狂人。朝から晩まで読んで読んで読みまくった挙げ句の果て、読みに狂いて黄泉の兇刃に倒れたる者。そんな読み狂人が若い頃から興味・関心があるのは、この世にいる多くの人たちは実際のところどんなことを考えているのだろうか。心のなかはどんなだろうか、ということである。
しかし他人の心のなかはわからない。そこでそれを推し量るためにいろんな方法が開発されてあるが、そのなかでもっとも有力なのはやはり文学である。文学においては内面というものが重視され、外面とともに内面が描かれ、人の心のうちがわかるということになっている。
そこで読み狂人は文学作品を随分と読み、ここにこそ人間が生がある! なんて思って興奮してクルクルと裸になり渚に走って行って持参した水菜を貪(むさぼ)り食うなどしたものだが、しかし冷静になって考えてみると文学に出てくる人と、実際に周囲に居る人、例えば山手線で隣の席に座り電話を弄(いじ)くっている人や焼き鳥屋でボンジリをうまそうに食べている人とかなり違っていて、あれはひとつの、作品のためのモデルケースというか、総務省のホームページに出てくる四人家族みたいな感じがして、なんか違うな、とも思ってしまう。