ニュースカテゴリ:暮らし
余暇
「和食」文化輸出も期待 伸びる日本食材の海外需要
更新
湯浅醤油有限会社の蔵を見学するミシュラン星付きレストランのシェフら(同社提供) 世界的な和食ブームが続く中、高級しょうゆやホタテなど日本食材の海外需要が好調だ。背景には海外での日本食レストランの普及がある。「和食」の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産登録を追い風に、調理器具など「食」関連の輸出拡大が期待される。(寺田理恵)
欧州のミシュラン星付きレストランのシェフらが愛用する「湯浅醤油(しょうゆ)生一本黒豆」(200ミリリットル、1千円)は杉の樽(たる)で熟成させる製法が特徴だ。製造する「湯浅醤油有限会社」(和歌山県湯浅町)の新古敏朗社長は「しょうゆの味が海外で広く知られ、味にこだわって選ぶ人が増えた。より良いものを求める波が来ている」と話す。
平成19年から商社を通じて米国に年数千本を輸出。日本の2、3倍の価格で売られる。欧州へ広がったのはベルギーのシェフが知人に頼んで大阪市の百貨店にあったしょうゆ全種類を買い求め、その中から選び出したのがきっかけ。新古社長によると、ワインを熟成させる欧州ではしょうゆを熟成させる価値も理解される。トップレベルのシェフは、ケーキのクリームに香り付けに入れるなど日本人と異なる発想で使うという。
東京電力福島第1原発事故による風評被害で一時は落ち込んだが、昨年は東南アジアから工場を訪れる人が目立った。格安航空会社の就航や、査証(ビザ)発給要件緩和の影響とみられ、今年は東南アジアへの輸出を検討する。
日本醤油協会によると、世界に普及したしょうゆのほとんどは原料調達や生産が海外で行われ、海外生産量は23年に約20万キロリットルと、昭和50年の約8千キロリットルから約25倍に拡大。日本から輸出されるのは「高くても売れるしょうゆ」だ。輸出量はリーマン・ショック(2008年)後の減少から回復傾向にあり、平成24年は約1万7千キロリットル(貿易統計)だった。
しょうゆ以外の食材や調理器具など食文化にかかわる商材も伸びている。日本食材卸事業を海外で展開する「宝酒造」(京都市伏見区)はコメやノリなど食材のほか、炊飯器や食器、箸なども扱う卸会社をフランスと英国で相次いで買収し、両社とも売り上げは右肩上がり。
背景には、アジアを中心とする海外の日本食レストランの増加がある。農林水産省の推計によると、25年3月には18年の約2・3倍の約5万5千店。こうした影響からか、北海道漁連の冷凍ホタテの推定輸出量は21、22年度の年間3千トンから順調に伸び、25年度は1万トン超の勢い。「東南アジアの富裕層にすし用の需要が高まったのも一因」(営業第一部)のようだ。
世界30カ国で包丁を販売する「貝印」(東京都千代田区)がロシア市場への本格進出を目指し、昨年12月に現地で実施したイベントでは、日本の料理人が包丁技を駆使した料理が注目を集めた。
同社の包丁は既に定着した欧米に加え、ここ5年はアジアで売れており、「日本料理の素材を丁寧に扱う考え方や職人技の包丁さばきが日本の包丁の評価につながっている」(経営企画室)と手応えを感じている。
■
食材輸出には課題もある。平成20年から日本産米を輸出しているコメ卸大手「神明」(神戸市中央区)は、米国でカリフォルニア米を原料とする低コストな冷凍米飯の工場の建設を進める。
狙いは、現地の家庭に和食が浸透していないという課題の解決。輸出拡大には、富裕層以外に家庭や大衆的な外食産業へのご飯食文化の普及が鍵となる。欧米では家庭に炊飯器がなく、日本ほど家庭で調理しないため、電子レンジで調理可能な冷凍米飯を日本の炊飯技術で製造する。米国米を使うのは流通網を構築するのが目的だ。
将来的には日本産米を原料とする商品も販売したい考え。担当者は「日本のコメは味と品質の良さ、安心感がある。価格差が1.5~2倍に収まれば売れる可能性は高まるが、米国米もそろえないと商談の入り口に立てない」と話している。