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北方領土に日本人定住へ 戦略検討を
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ウクライナ南部のクリミア自治共和国で3月16日行われた住民投票で、クリミアのロシアへの編入が支持された。これを受け、ロシアは18日、クリミア併合を決定した。この日、ロシアのプーチン大統領は、連邦院(上院)議員、国家院(下院)議員、クリミアの代表者の前で演説した。プーチン大統領は、「今日、われわれは、われら全員にとって死活的に重要な意味と歴史的意義を持つ問題に関連して集まった。16日、クリミアで住民投票が行われた。それは、民主主義的手続きと、国際法規範に完全に従って行われた。投票には82%以上が参加した。96%以上がロシアとの統合に賛成した。この数字はきわめて説得的である」と述べた。
しかし、国際社会は「自警団」という名のロシア軍がクリミアを実効支配下に置く中で行われた住民投票の結果を認めていない。
プーチン大統領は、クリミアを併合することによってロシアに対する国際的非難が強まることを十分認識している。しかし、クリミアはロシアとの結びつきが強いという歴史的経緯、クリミア住民の大多数が実際にロシアへの編入を望んでいるという事実、また、ウクライナにクリミアを奪還する軍事力がないこと、さらには米国が軍事的にウクライナを支援する余裕がないと、プーチン大統領は総合的に判断し、クリミア併合を国際社会は最終的に受け入れざるを得なくなるとみているのであろう。それだから、プーチン大統領は、「現在、ヒステリーをやめ、『冷戦』のレトリックを拒否し、明白な事柄を承認する必要がある。ロシアは、国際関係の自立した、積極的な参加者だ。他の諸国と同様にロシアには、考慮せねばならず、尊重しなくてはならない国益がある」と述べたのだ。
「考慮せねばならず、尊重しなくてはならない国益」のためには、近隣諸国の領土を併合しても構わないというのは、典型的な帝国主義者の発想だ。ウクライナ危機をきっかけに国際社会は帝国主義的傾向を一層強めた。
この現実を、われわれ日本も真摯(しんし)に受け止め、戦略的な対応をしなくてはならない。
まず、ロシアを徹底的に追い込んで、中国に近寄らせるのは得策でない。中国がロシアの外交的支援を得ることで、「尖閣諸島を武力によって奪取することができる」という誘惑を抱かないようにすることが重要だ。日本政府として、ロシアのクリミア併合は断固認められないという姿勢を示すとともに、ロシアとの政治、安全保障問題についての対話を絶やさないことが重要だ。その意味で、安倍政権は、賢明な対露政策を行っている。
第2に、北方領土に日本人が定住する中長期戦略を構築する必要がある。日本側の要求が全面的に満たされ、北方四島が返還され、択捉島とウルップ島の間に国境線が引かれ、日露平和条約が締結されたとする。現状から推定すれば、色丹島、国後島、択捉島の住民の大多数はロシア系であろう(歯舞群島は無人島)。このロシア系住民が、4島の独立宣言を行った上で、ロシアへの再編入を求めるという住民投票を行い、それが賛成多数となれば、クリミアの例にならって、ロシアに編入される可能性がでてくる。一旦、合意して決定した国境が、一方的に変更される危険をはらんでいる状態では、領土交渉を行うこと自体の意味がない。
北方四島は、われわれの祖先が開拓した固有の領土なので、その返還を絶対に諦めてはならない。今こそ、北方領土に日本人が定住することができるメカニズム構築を真剣に考えるべきだ。仮にクリミアに居住するウクライナ人が、圧倒的多数を占めていたならば、ロシアも今回のような強硬策を取ることはできなかったと思う。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)