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【奥多摩だより】春遠からじ(山梨県丹波山村)
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春遠からじ=2013年12月25日、山梨県北都留郡丹波山村(野村成次撮影) 正直なところ、雪と氷の季節が過ぎて奥多摩に花が咲くまでの間は困る。なにせ周りは枯れ木ばかりなのだ。奥多摩湖の先、都県境を越えれば山梨県丹波山村。山の斜面の針葉樹は緑だが、広葉樹は秋に葉を散らしたまま。枝だけが斜めに差し込む朝の光に輝いていた。それを眺めていると白骨が集まってきて、「オイお前もジジイだろう、早く来いよ」と誘われているように思うのだ。木々は今は骨でも、春が来ればまた芽吹くが、こっちは骨になったらオシマイだ。それを願っている若い連中もいっぱいいるだろうが、簡単に期待にそうわけにもいかない。
2000年ころ「春遠からじ」という曲が流れていた。歌手は大石まどか(当時は大石円)さん。リストラされた人も、まだまだ人生をやり直せるとの応援をこめた歌だった。そのころ小生は単身赴任中で、その曲のキャンペーンをしているところに偶然行き合った。仕事中だったのでゆっくり聴いてはいられなかったが、耳に入ったばかりのメロディーが頭の中で回り出した。それでCDを求め、チビチビやりながら夜な夜な聴いていたものだ。それから十数年、先日その人を撮影する機会があった。
薄いピンクの着物の人は、あの日よりも美しく、撮影のあと「以前の歌のことですが」と思い出を話してみた。笑って聞いておられたが驚かれただろうか。苦労されたことも多かったようだ。しかし「春遠からじ」と歌い続け、先頃は「居酒屋『津軽』」をリリースされた。ご健闘を祈る次第だ。
さて奥多摩、あと1カ月もすると骨だけの木々は緑の衣装をまとい、急によみがえってくる。遠からじではない、春になったのだ。(野村成次、写真も/SANKEI EXPRESS)