SankeiBiz for mobile

【奥多摩だより】桜散る(東京都奥多摩町)

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのトレンド

【奥多摩だより】桜散る(東京都奥多摩町)

更新

桜散る=東京都奥多摩町(野村成次撮影)  春先の東京は寒かった。2度の大雪もあり、桜の開花は遅いと予想されたが、3月下旬には暖かい日が続き、帳尻を合わせたように一気に咲き出した。あっという間に満開だ。美しい桜を妬むように花散らしの雨がやってきた。ピンクの敷物を広げたようになっている。桜の季節がまもなく終わって春がまた過ぎる。なんと無常なことだ。

 枕草子に「桜など散りぬるも なお世の常なりや」と清少納言さんはクールに書き留めたが、この年になったら「あと何回花を見られるか」なんて心配もよぎってくるが、それでもしぶとく頑張ろう。

 奥多摩は春が遅い。標高によって春爛漫(らんまん)だったり春浅くで、狙いに困る。ときたま出かける身としては、桜にしてもピークのときにバッチリ出合うことは至難の業なのだ。あるがままに撮るしかないとは、重々承知しているのだけれども。

 奥多摩湖から北に向かう道を歩いたのは数年前のことだ。湖に流れ込む峰谷川の近くに桜が咲いていた。対岸は杉が植林されていて、暗いスクリーンになっている。桜は午後の逆光を浴びて、鮮やかに浮かび上がっていた。谷間から上昇気流が生じているのだろう。風が吹けば散った花びらは吹き上がってくる。はらはらと落ちる桜はよく見るが、上へ上へと飛び上がってくるのはおもしろい。

 「風よ吹け、もっと吹いてくれ」なんて願いながら、花吹雪を待った。ところが狙いをつけたら風は吹かない。風神さまも意地悪なのだ。邪心を抱いたカメラマンなど相手にする暇がないということだろう。その風神さまがクシャミをした瞬間、花びらが舞い上がった。もちろんありがたくシャッターを切った。(野村成次、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■のむら・せいじ 1951(昭和26)年生まれ。産経新聞東京、大阪の写真部長、臨海支局長を経て写真報道局。休日はカメラを持って、奥多摩などの多摩川水系を散策している。

ランキング