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【ウクライナ情勢】土台揺れるG20 「薄氷の協調」
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≪「ウクライナリスクに留意」共同声明≫
ワシントンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は4月11日午後(日本時間12日未明)、混乱が続くウクライナ情勢を念頭に「経済と金融へのリスクに留意する」とする共同声明を採択し閉幕した。国際通貨基金(IMF)を軸にした支援で協調することも確認され、ウクライナ情勢をめぐる米欧とロシアの決定的な対立は避けられた形となった。
声明は「ウクライナにおける経済状況を注視する」と明記。財政不安のウクライナが深刻な経済危機に陥れば、世界経済や金融市場に無視できないリスクが生じるとの懸念を各国が共有した。併せて、ウクライナ支援では、IMFが「重要な役割を果たす」との認識でも一致した。
今回のG20は、ロシアによるウクライナ南部クリミア自治共和国の併合後、初めてロシアも参加する会合として注目を集めた。ただ、議長国オーストラリアのホッキー財務相は閉幕後の会見で「(会合では)緊張が走る場面はなかった」と強調。ウクライナ支援の必要性で、ロシアも足並みをそろえたと説明した。
声明は、2月のシドニー会合で合意した世界の国内総生産(GDP)を5年間で2%以上伸ばす目標を達成するため、各国に「新たな行動」を要求。9月の会合で検証するとした。
また、G20は新興国の発言拡大に向けたIMF改革が米議会の反対で遅れていることに「失望している」と憂慮。年末までに実現できない場合、新たな選択肢を検討する方針も示した。
一方、日本は会合で、4月の消費税率引き上げとそれに伴う5.5兆円の経済対策を説明。麻生太郎財務相は、閉幕後の記者会見で「経済成長と財政健全化の両立の観点で各国の理解が得られた」と述べた。
≪土台揺れるG20 「薄氷の協調」≫
ウクライナ問題で米欧とロシアが対立する中、世界経済への危機感からG20の協調はかろうじて保たれた。ただ、ウクライナ情勢は緊迫化し、米欧とロシアの緊張緩和の糸口はつかめぬまま。今後は外交を軸に事態打開を模索するが、薄氷を踏む協調がいつまで続くか見通せぬ状況だ。
ロシアとの関係悪化で経済的混乱が広がるウクライナはデフォルト(債務不履行)危機もくすぶり、ロシアも米欧の制裁で資金流出が続く。ロシアやウクライナが主要産地である小麦の価格が上がり、穀物相場も不安定だ。G20が声明でウクライナ情勢を「リスク」と明記したのも、回復途上の世界経済に冷や水を浴びせかねないためだ。
ウクライナ最大の債権国のロシアにとっても憂慮すべき事態で、議長国オーストラリアのホッキー財務相は「ロシアも積極的に議論と声明作成にかかわった」と指摘。ロシアも加盟するIMFを通じたウクライナ支援の確認が喫緊の議題だっただけに、G20がウクライナ支援で一致したことは市場に一定の安心感を与えそうだ。
ただ、ウクライナ東部では親ロシア派住民の独立運動など緊張が高まり、次回9月のG20会合に向け、「状況が悪化する可能性は否定できない」(ドイツのショイブレ財務相)。
米露の政治的対立もエスカレートしている。G20直前の米露財務相会談で、ルー米財務長官が追加制裁を警告したのに対し、ロシアのシルアノフ財務相は「ウクライナのロシアへのガス代金の未払いこそ憂慮すべきだ」と反発した。
ウクライナ危機の打開に向け、ウクライナと米国、ロシア、欧州連合(EU)の4者協議が4月17日に開かれる。米欧はロシアとウクライナの直接対話を促す構えだが、協議がこじれれば今後のウクライナ支援に暗雲が垂れ込めそうだ。
米欧などの先進7カ国(G7)はロシアで予定されていた主要国(G8)首脳会議をボイコットし、6月にG7だけで首脳会議を開く。11月にG20首脳会議が開かれるオーストラリアのホッキー財務相は「G20は経済に関する会議で、ロシアも参加するはずだ」と楽観的だが、ロシアのプーチン大統領がG7に反発し欠席するとの観測もある。
ロイター通信が「薄氷の協調」と看破するように、金融危機以降の世界経済の支柱であり続けたG20の土台が揺れている。(ワシントン 柿内公輔/SANKEI EXPRESS)
・ウクライナ支援で協調。国際通貨基金(IMF)が重要な役割を果たす
・ウクライナ情勢をリスクとして警戒し、状況を注視
・成長目標の達成へ新たな行動。9月の会合で成長戦略を検証する
・IMF改革は年末までに実現しなければ新たな選択肢を策定する
・世界経済のリスクや脆弱(ぜいじゃく)性に警戒を続ける