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手と指は、目と口ほどに本を読む 手指の使い方が、本をダイナミックにもセクシーにもする 松岡正剛

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手と指は、目と口ほどに本を読む 手指の使い方が、本をダイナミックにもセクシーにもする 松岡正剛

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【BOOKWARE】編集工学研究所所長、イシス編集学校校長の松岡正剛さん=9月14日、東京都千代田区の「丸善丸の内店内の松丸本舗」(大山実撮影)  【BOOKWARE】

 手は優しくもあり、雄弁でもある。手には年齢も出るし、個性も出る。手はつねに千変万化するものなのだ。鷲掴みする手、頬杖する手、アイラインを引く手、箸をもつ手、手招きの手、煙草をくゆらす手、キーボードを打つ手、紐を結ぶ手、お詫びの手、扇をあおぐ手、ボールを握る手…。すべて異なっている。詩人の清岡卓行に『手の変幻』という名著がある。手の様相の数々を古今東西から拾って、みごとなエッセイにしていた。

 本と接するときの手と指にも、さまざまな表情や癖が出る。本屋でのことを思い出してもらえばわかるように、一冊の本を書棚から手にとるところから始まって、本を開くとき、ページをめくるとき、そのページをぱらぱら送るとき、本を抱えてレジに行くとき、本を書棚に戻すとき、本をカバンに入れるときまで、実は手と指は機能と表情を頻繁に変えるのだ。それが人さまざまなのだ。

 たとえば、ぼくが書棚から本を取るときは、狙いを定めている場合はたいてい右手を使う。ところが欲しい本を書棚から見いだすために次々に本を手にするときは、左手で本を取ってこれを下から支え、右手で開けて、その右手のままページをすばやく返していく。そのほうが「判定読み」のリズムに乗れるからだ。

 ページをめくる手つきは必ずしも一様ではない。幾つかのスキルが分かれる。日本語のタテ組の本ならば、ふつうは右手で左ページの下端をめくっていくだろうが、集中するときやマーキングをするときは、左の人差し指と親指で左ページの上端をアーチ状に送り、中指で次ページを押さえていく。これがヨコ組の本や洋書なら、右指右送りを強いられる。

 意外に思われるかもしれないが、左手の親指だけでページを送ることも少なくない。これは新書や文庫などの軽めの本を机上に置かずに、少し空中に持ち上げたまま読むときで、札束を送るように左手の親指をずらしながら読むのだ。かなりリズミカルに集中できる。右手で電車の吊り革につかまり左手で読むときのことを想像してもらえば、このスキルがそんなに難しくないことがわかるだろう。ちょっと試してもらいたい。

 もう亡くなったのだが、ぼくの叔父に聖書の点字訳をした全盲者がいた。ヘレン・ケラー賞をもらった。その叔父に初めて点字本を“読む”ところを見せてもらったときは衝撃的だった。まさに手と指が克明に文字の送りを読んでいた。以来ぼくは、もっと手と目と指を連動させて本を読むようにしたいと思うようになった。

 読書は知身一体のアフォーダンスに満ちた行為なのである。五感や手指や身体が本にうまくかかわれればかかわるほど、乗っていけるものなのだ。そこから豪快な読み方もセクシーな読み方も生まれていく。(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS

 ■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。80年代、編集工学を提唱。以降、情報文化と情報技術をつなぐ研究開発プロジェクトをリードする一方、日本文化研究の第一人者として私塾を多数開催。おもな著書に『松岡正剛千夜千冊(全7巻)』ほか多数。「松岡正剛千夜千冊」(http://1000ya.isis.ne.jp/

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