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日本人にはなぜ妖怪が必要なのか 水木しげるセンセイの哲学に学ぼう 松岡正剛

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日本人にはなぜ妖怪が必要なのか 水木しげるセンセイの哲学に学ぼう 松岡正剛

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【BOOKWARE】編集工学研究所所長、イシス編集学校校長の松岡正剛さん=9月14日、東京都千代田区の「丸善丸の内店内の松丸本舗」(大山実撮影)  【BOOKWARE】

 水虎、たたりもっけ、佐伯の人魚、道通さま、さとり、川猿、倉ぼっこ、お菊虫、くだん、沼御前、枕返し、大かむろ、片輪車…。水木しげるの『妖怪事典』に登場する名うての妖怪たちだ。むろんこの程度は、ごくごく一部だ。

 「たたりもっけ」は死んだ赤ん坊の口から出てフクロウに住み着く。「道通さま」は人に祟(たた)る蛇神で、岡山県笠岡には道通神社がちゃんとある。「倉ぼっこ」は蔵を守る妖怪、「大かむろ」は狸が化けたデカ顔のことをいう。

 日本中どこにも妖怪がいる。飛騨や美濃にいる「さとり」は関東では「おもい」と呼ばれた。木を伐っているとぬっと現れるので、ぞっとするほど怖い。すると「おもい」が「いまお前はぞっとするほど怖いと思ったな」と言う。男が慌ててこれじゃ取って食われるぞと思うと、「いまお前は取って食われると感じたな」と言う。ついに何も言えなくなると「逃げるだけ逃げようと思ったろう」と言ってくる。人の心を読む妖怪なのだ。

 なぜ日本中に妖怪がいるのか。水木さんは妖怪の数と種類だけ、人間の心が何かを怖がっているからだと言う。だからそんじょそこらの心理学なんかより、妖怪学のほうがずっと大事なのである。いや、ずっと正確なのだ。それでも水木さんはときどき妖怪がほんとうに実在しているかどうかが心配で各地を探訪し、土地の人から証拠の話を聞いては、ホッと安心するのだ。

 水木さんが妖怪に精通するようになったのは、幼少期に「のんのんばあ」からたくさんのお化けの話を聞いたこと、戦時に出兵したラバウルでたくさんの妖怪に出会ったこと、この二つの体験にもとづいている。以来、戦争に敗けた日本人は、どんなときも妖怪を密接に感じていなければならないと確信した。詳しくは本人がマンガに仕立てた大著『水木しげる伝』を読まれるといい。

 『河童の三平』は日本マンガ史上の傑作である。『ゲゲゲの鬼太郎』は日本民俗学の金字塔である。ぼくはかつて、そんな水木さんに織部賞(磯崎新審査委員長)のグランプリを差し上げた。感想のマイクを向けたら、「ふっふっふ、あのね、ぼくは神さまですからね」と不気味に笑っていた。

 【KEY BOOK】「水木しげる伝(上中下)」(水木しげる著/講談社漫画文庫、各886円)

 マンガによる半生記。大正末期に鳥取県境港で育った少年は、生まれて3歳まで言葉が喋れない。最初に放った言葉が「ネンコンババ」。「しげる」と言えず「げげる」と言っていたためゲゲと呼ばれた。16歳で大阪の精華美術学院に入ったが、校長兼教授がたった一人の怪しい学校で、仕方なく絵本や虫の図鑑作成をしていた。21歳で召集されて激戦地ラバウルへ。空爆で左腕を失ったが、ここから数奇な妖怪マンガ人生が始まった。

 【KEY BOOK】「中公愛蔵版 ・河童の三平」(水木しげる著/中央公論社、1450円、在庫なし)

 ぼくは貸本時代に読んだのだが、その後は有為転変。月刊ぼくら・少年サンデー連載をへて約80編の話がそのつど組み替えられていった。どこか河童に似ていた河原三平は、茅葺の家でおじいさんと暮らすうちに、近くの川にいる河童国のかん平たちと交流する。調べてみると、三平の先祖の写真には河童が紛れこんでいた。そんな話がふわふわ進むのだが、なんとも愉快な気分になっていく。戦後マンガの傑作中の傑作だった。

 【KEY BOOK】「水木しげるの妖怪事典」(水木しげる著/東京堂出版、2376円)

 この手の本はわんさとある。東京堂だけでも『続妖怪事典』『あの世の事典』『世界妖怪事典』『続世界妖怪事典』など。1966年に少年サンデーで妖怪画を連載したのち、『日本妖怪大全』を問うて話題になった。一方、『ゲゲゲの鬼太郎』は水木が手掛けた紙芝居が原点で、65年の少年マガジン『墓場の鬼太郎』連載をへて、3年後に『ゲゲゲ』に改題するとアニメ化が始まって爆発的に当たった。あとは怪人水木の快進撃ばかり。(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS

 ■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。80年代、編集工学を提唱。以降、情報文化と情報技術をつなぐ研究開発プロジェクトをリードする一方、日本文化研究の第一人者として私塾を多数開催。おもな著書に『松岡正剛千夜千冊(全7巻)』ほか多数。

「松岡正剛千夜千冊」(http://1000ya.isis.ne.jp/

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