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芸と能の意味かみしめて 平松昭子

 北澤八幡神社の秋の例大祭で、演目「京の四季」を舞わせていただきました。毎年この時期は、お天気が不安定。雷のゴロゴロいう音の中、後半にさしかかったところで音楽が止まってしまいました。停電で屋外の客席や屋台の明かりなど全て真っ暗になりました。能舞台の照明だけが明るく私を照らしました。無音のまま舞い続けようかどうしようか一瞬迷いましたが演目の途中で動きをやめ、立ったまま軽く会釈をした後そそくさと退場しました。こんな経験は初めてだったので舞台を下りた後、考え込んでしまいました。見に来てくださった方々に、お礼とおわびの気持ちを伝えるために、正座して深々と頭を下げるべきだったのではと後悔しました。漫画『ガラスの仮面』の主人公の北島マヤは、舞台で毎回いろんなアクシデントにあいます。まんじゅうを食べるシーンでは、まんじゅうが泥まんじゅうにすり替わっていても、舞台を壊してはいけないと覚悟を決め、泥まんじゅうをじゃりじゃりと音を立てながらおいしそうに食べました。漫画史に残る名場面です。彼女は舞台しか生きられる場所がないと信じていたので必死でした。

 さて私は、そこまでの思いをもって舞台に立ったのかと問われると怪しくなってきます。毎年とても緊張するので、今年はリラックスすることを心がけ体操やエクササイズのような気分で舞ってみることにしました。雑誌の撮影なども緊張しないので、これは撮影なんだと思ってみました。そのおかげで、全く緊張せず、前半は身体が軽くて気持ちよく舞えました。しかし後半にさしかかったところで、音楽が止まり恥ずかしさと申し訳なさとで、とぼけたような退場をしてしまったのです。こういったアクシデントは、常日頃の心がけが試されるような気がします。能舞台には、本当に神様がいらっしゃるんだなと思いました。

 私の出番の次は、ベリーダンスや下北音頭のバンド演奏など、新しい演目が次々と披露されました。北澤八幡神社の奥様が、「下北沢は芸能の街ですものね」とおっしゃっていました。いつお会いしても本当にすてきな奥さまなんです。来年の舞台に気持ちを切り替え、1年後は、芸と能の意味をしっかりかみしめて舞台に立ちたいと思いました。(イラストレーター 平松昭子/SANKEI EXPRESS

 ■ひらまつ・あきこ 1970年、愛知県生まれ。広告プロダクション退社後、フリーのイラストレーターに。ファニーでエレガントなイラストで人気を集め、現在は「GLOW」でコミックエッセーを連載中。「kate spade new york」日本公式ブロガー。水墨画や日舞をたしなみ、着物を愛好する。著書に「お洒落きものイズム」(グラフィック社)など。LINEのスタンプ「ラヴ&ゴージャス」が発売中。kimonosnack.blogspot.com

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