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この堂々たるライプニッツ著作集全10巻 知の組み合わせをめざすアルス・コンビナトリア 松岡正剛

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この堂々たるライプニッツ著作集全10巻 知の組み合わせをめざすアルス・コンビナトリア 松岡正剛

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【BOOKWARE】編集工学研究所所長、イシス編集学校校長の松岡正剛さん=9月14日、東京都千代田区の「丸善丸の内店内の松丸本舗」(大山実撮影)  【BOOKWARE】

 日本で唯一のライプニッツ著作集が工作舎から刊行されている。工作舎はぼくが1971年に立ち上げた出版社ではあるが、この著作集の仕掛人は一から十までが十川治江だ。しかもいまは全10巻だが、さらに続刊を計画している。数理にめっぽう強い十川のライフワークにふさわしいと思って、強く唆(そそのか)した。さっそく逗子の下村寅太郎さんを中心に翻訳編集体制が整えられていった。

 第1巻刊行は1988年の冬。ぼくはすでに工作舎を引いていたが、装丁とエディトリアルデザインは杉浦康平さんが引き受けてくれた。とても知的に美しく、とてもライプニッツめいている。3年をへて配本を了えた。日本で最も刺激的な容貌を発揮している数理的な著作集なのではないかと思う。

 小出版社が巨人ライプニッツの著作集に挑むなんて大変な仕業だ。だいたい何を収録するかだけでも戦争のようなもので、本場のドイツでも200巻を超えるライプニッツの完本がまだ完成していない。しかし、挑戦するにふさわしい巨人なのである。ライプニッツによって、世界の見方はそれ以前とそれ以降に大きく分かれたのだ。だからその著作集を揃えることは、世界哲学史に幅の太いキラキラと輝く日付変更線を立ち上げるようなものなのだ。

 ライプニッツは途方もない才能の持ち主で、その学識力・発想力・表現力は歴史上でも群を抜いている。数学・論理学についての大胆な提案のほか、神学・政治・歴史・外交にまでその業績は及んだ。だからその特異な構想の根幹にあるものを一言ではとうてい言いあらわせないが、ぼくはずっと「アルス・コンビナトリア」(結合するための大いなる技能)にあると思ってきた。

 世界を理解するには、これを幾つものグループや要素にいったん分別しなければならない。そこには共通するものと差異を示すものが出てくる。けれどもこれらを再統合しないかぎりは、世界に触れたことにはならない。ライプニッツがさまざまな視点をもってやってのけたことは、この再統合のためのアルス・コンビナトリアだったのである。(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS

 【KEY BOOK】『ライプニッツ著作集』1・2・3(工作舎)1万800円・1万2960円・1万8360円

 1「論理学」、2「数学論・数学」、3「数学・自然学」。とくに第1巻の結合法と普遍的記号法についての試論が予見に満ちていてすばらしい。ライプニッツは「どんな場合にも使える普遍的な方法」を記号的にあらわすことに異常な関心をもった。いわば論理や意味が計算できる方法を探求したのだ。その途次で、微積分学の開発にも代数学の発展にも大きな寄与をもたらした。第3巻では天体力学や光学についての仮説も吐露される。

 【KEY BOOK】『ライプニッツ著作集』4・5(工作舎)9180円・1万260円

 ライプニッツはデカルトやロックの考え方を超越して、独自の認識をめぐる世界観を披露した。その核心思想が4・5「認識論」に収録された『人間知性新論』である。テオフィルとフィラレートによる厖大な架空対話になっている。近世のプラトンをめざしたのだ。難解な議論はさておき、ここでわれわれが学ぶべきは「観念」(イデア)と「概念」(カテゴリー)の違いである。最小の概念を使いきって観念に最高の構想を生む。そこを学びたい。

 【KEY BOOK】『ライプニッツ著作集』6・7(工作舎)8913円・8856円

 しばしばスピノザと並び称されるライプニッツの神学論『弁神論』が6・7「宗教哲学」に唸っている。この神学講義は、ライプニッツが半生を過ごしたハノーヴァーの選帝侯の妃殿下ゾフィーを念頭に語り下ろされた。テオディセー(弁神論)は造語。神と正義を議論する仕組みがテオディセーだった。その寛容な論点があまりに予定調和的に見えたので、後世、ライプニッツは楽観主義者とみなされたが、ぼくはそう思わない。むしろ厳密だ。

 【KEY BOOK】『ライプニッツ著作集』8・9・10(工作舎)9720円・1万260円・9180円

 8「前期哲学」、9「後期哲学」、10「中国学・地質学・普遍学」。最も知られている『モナドロジー』(単子論)は9巻に入る。世界を最小構成単位モナドにひそむ複合性の独自の開示とみなした論法は、青春時代のぼくを大いに熱狂させた。中国学では「易」の二進法について、地質学ではプロトガイアの仮説が提示される。ライプニッツを読むことは必ずしもラクではないが、今日の「関係の哲学」の先人として読むことを勧める。(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS

 ■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。80年代、編集工学を提唱。以降、情報文化と情報技術をつなぐ研究開発プロジェクトをリードする一方、日本文化研究の第一人者として私塾を多数開催。おもな著書に『松岡正剛千夜千冊(全7巻)』ほか多数。「松岡正剛千夜千冊」(http://1000ya.isis.ne.jp/

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