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【USA! USA!】(4) 移民たちが作ってきた繁栄の歴史
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100年以上の歴史があるカフェ「ラグマリチーノ」。リンゴをキャラメルなどでカバーした季節ものの「キャラメル・アップル」作りに追われていた=2014年10月12日、米イリノイ州モリーン(緑川真実さん撮影) 古き良きアメリカを知りたければ、イリノイ州を訪ねるのがいい。国際線の玄関口シカゴから自動車で郊外に出れば果てしなく畑が広がる。州面積の8割近くを占める畑で作るのは、主にトウモロコシと大豆。ともに米国内で1、2位を争う生産高で、日本ではまずお目にかからない、巨大なトラクターなど農機具が点在する。
ミシシッピ川沿いの街、モリーンには、全米随一の農機具・建設関連機器の製造・販売会社であるディア&カンパニーの本社がある。1800年代前半、鍛冶屋だったジョン・ディアが、イリノイ州の肥沃(ひよく)な土地に、ドイツやアイルランドなどからの移民が集まっていたのに着目して創業。シカをあしらったロゴマークの「ジョンディア」ブランドで世界的に知られる。
入場無料のパビリオンには10月中旬の週末、多くの家族連れが訪れ、農機具の前で記念撮影をしていた。パビリオンで働くアンさんは「最近はうちの会社も事業を広げて、農機具を中国や南米に輸出したり、家庭用自動芝刈り機を売ったりしているわ」と話す。
近所には、イタリアからの移民が1908年に創業したカフェ「ラゴマリチーノ」がある。オリジナルのアイスクリームが人気で、ディア&カンパニー社の社員も通う。この日は老夫婦がチョコレートサンデーを分け合っていた。移民たちが繁栄の歴史を作ってきた農業大国アメリカ。モリーンは、その横顔がかいま見える街でもある。
≪ここは「ハート・オブ・アメリカ」≫
イリノイ州は米国を横断した「ルート66」(旧国道66号線)の起点でもある。1926年に創設、シカゴからカリフォルニア州サンタモニカまで、米南西部の約3755キロメートルを結んで経済や産業の発展に貢献した道路で、繁栄に向かう米国をイメージさせる象徴として多くの映画や音楽にも登場した。高速道路の発達で85年に廃線となり、現在は一部が一般道路として活用されている。沿線には往年の名所が多い。
シカゴと州都スプリングフィールドの中間点、ポンティアックには「ルート66博物館」と「自動車博物館」がある。標識や看板、ガソリンスタンドで使われていた道具、クラシックカーなど、マニア垂涎(すいぜん)のコレクションがずらり。街中には、ポンティアックにほれ込み、移住してきた中国人アーティスト、タン・ドンバイ氏による作品も並ぶ。
ロバート・ラッセル市長は「ここは『ハート・オブ・アメリカ』。この10年ほど、外国人観光客の誘致に力を入れています。最近は日本人に加え中国人の方も増えました」と話す。
州都スプリングフィールドの人口は約12万人で、シカゴの約270万人に比べてかなり小さい。だが、第16代米国大統領、エーブラハム・リンカーン(1809~65年)が弁護士から政治家へ転身するまでの壮年期を過ごした街として、全米に知られる存在だ。記念館や旧住居、名前を冠したホテルや図書館のほか、リンカーンの銅像やレリーフが点在し、全米の小中高生が修学旅行で訪ねる観光名所でもある。
ハイライトはリンカーンが家族とともに眠る墓。そびえ立つ巨大なオベリスク(記念碑)が目印で、墓の前にある顔の銅像の鼻には「触ると幸せになる」という言い伝えがある。
リンカーンは、南北戦争終結直後の1865年4月15日にワシントンDCで暗殺された。棺はDCからこの街まで2週間以上かけて運ばれた。来年は暗殺から150周年の節目の年にあたり、さまざまなイベントが計画されている。
リンカーンを尊敬していることで知られるバラク・オバマ大統領(53)はイリノイ州選出の上院議員を務め、2007年2月にスプリングフィールドの州議会議事堂で大統領選への出馬表明を行った。だが、市内にオバマ氏を記念するものは見当たらない。「現役の大統領を、リンカーンと同じように扱うのは難しいよね」と、市観光局のジェフ・バーグさんは肩をすくめた。(文:藤沢志穂子/撮影:緑川真実(まなみ)/SANKEI EXPRESS)
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